電話1本「今から来て」 口約束で働かされる文化芸術の慣習見直しへ

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神宮桃子 編集委員・沢路毅彦
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 文化芸術の担い手がより適切な環境で働けるよう、文化庁は契約に関する指針や契約書のひな型例作りを進めている。13日の有識者会議で、とりまとめ案が示された。口約束が慣習で、業務内容が不明確なため、コロナ禍で支援事業に申請できない問題も起きた。映画界で性被害の告発が相次ぐが、契約書がなく優越的立場の乱用やハラスメントなどが生じやすい環境とも言われる。同庁はひな型例を活用してもらい、契約の書面化を推進したい考えだ。

 文化芸術分野では、創造性が高く流動的という特性や、信頼関係で仕事をする慣習などから、契約の書面化が進んでいない。事業者と個人の芸術家らが取引する際は、下請法などが適用され書面の交付が義務づけられる場合もある。今回の指針はこうしたケース以外にも書面化を進め、適正な契約関係が結べるようにする狙いがある。

「信用でやってきた」 報酬の未払いめぐり訴訟も

 「今から来てくれ」。電話1本で仕事を頼まれることもあり、契約書はほとんどないと話すのは、フリーで映像制作をする清水純さん(52)だ。「昔からの慣例。信用でやってきた」と言うが、口頭での契約で、報酬をめぐりトラブルになったことがある。

 数年前にDVDの制作を頼まれた際、追加作業が発生した分を請求したが相手方が支払わず、訴訟を起こした。別の仕事でも、発注側が未払いのまま逃げたことがあるという。清水さんは「書面に残すことは必要。受注側も契約について知らないことが多いので、ひな型だけでなく勉強会などがあると良い」と話す。

 劇場や制作会社、フリーなどの舞台芸術制作者らで作るNPO法人「舞台芸術制作者オープンネットワーク」は2020年、発注側と受注側の両者を含む制作者に調査を実施。両者のズレが明らかになった。「契約書を結んでいなかった」はともに約7割だが、理由で最多だったのは、受注側は「発注者より提示されなかった」の一方、発注側は「相手方と信頼関係があり不要と考えた」。また、契約書なしで「特に問題がなかった」と答えたのは発注側が8割に対し、受注側は半数にとどまった。

 ネットワークの塚口麻里子理事長は「受注側は立場が弱い。『信頼関係』に隠れた権力関係によって苦しい状況にならないよう、契約書で関係性を客観的に明確化し、双方が話し合える状況を作ることが大事」と指摘する。

■文化庁の有識者会議、契約の…

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