梅山豚、米、野菜…茨城の美食探求へ料亭店主がSNSでグループ

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 茨城県ひたちなか市の料亭店主が昨夏、SNS上に「常陸国(ひたちのくに)ガストロノミー」というグループを立ち上げた。ガストロノミーとは美食学や料理と文化の探求を意味する。メンバーは農業生産者やシェフなど約50人。いったいどんな集まりなのだろう。(ライター・神野泰司)

 グループは、「京遊膳 花みやこ」の店主・西野正巳さん(57)がフェイスブック上につくった。自身の人脈や知識を生かして生産者と料理人をつなぎ、美食家たちがうなるような食文化をめざす。新たな食材や優れた生産者を見つけたら、現地に視察にも行く。

 西野さんが興味をひかれる人たちに呼びかけ、その趣旨に賛同した人たちがメンバーとなった。ターゲットは「ずばり、アッパー(上流)層の美食家です」と言い切る。

 地元生まれの西野さんは、平安時代の朝廷で出されていた有職(ゆうそく)料理を受け継ぐ京都の料亭で働いた。その後、都内の老舗料亭でも腕を振るい、28歳で独立し、花みやこを開業した。フランス発祥のレストランガイドにも紹介された。

 料理人となって以来、県産食材には目を向けていた。だが見方は厳しい。「生産量はトップクラスだが、私から見れば一流料理人の目利きにかなうものは多くない」と言う。

 「銘柄指定され、特産品になればOKではない。その上をめざさないと。行政や地域で持ち上げても、一流シェフや真の美食家には響かない。忖度(そんたく)なしの世界でブランディングできないとだめ」

 西野さんには以前から気になっていた生産者がいた。境町で中国原産の珍しい梅山豚(メイシャントン)を手掛ける塚原牧場社長の塚原昇さん(55)だ。互いに名前は耳にしていたが面識はなく、ガストロノミーメンバーになってから初めて会った。

 梅山豚は、コクとさらっとした脂身が特長だが、飼育が難しく肥育期間も長い。生産者はごく限られ、幻の豚と称される。塚原さんはその第一人者だ。

 しかし、軌道に乗せるまでに10年かかった。最初は市場では扱ってもらえず、都内の有名店に売り込んだ。何度も足を運び、シェフの意見を元にエサや飼育法に工夫を重ね、肉質を改良。その結果、複数の有名店に扱ってもらえた。そこで得た知識や情報、信用は財産になった。

 梅山豚の評判は広がり、唯一無二となった。塚原さんは、ブランディングはファンを作ることが大切という。「妥協しては成り立たないし、情熱を持っていないと続かない。ブランディングはやせ我慢のかたまりですよ」

 西野さんは若手生産者のやる気にも期待を寄せる。常陸太田市で米や芽ネギ、サラダ用の葉物野菜などを作る栗原農園社長の栗原玄樹さん(35)もガストロノミーメンバーの一人だ。

 栗原さんは、3年ほど前から西野さんに勧められた農法で米を作り、すしネタとして知られる芽ネギを栽培。米は16町歩のうち1反歩だけ、芽ネギも少量に限っている。

 「米は土づくり重視で手間がかかる。芽ネギも一般的な水耕栽培ではなく土で育て、根を切らずに出す。高く売れても販売先は限られる。これを専門にするのは会社として無理」と苦笑いする。

 それでも作るのは「自分が食べたいものを作りたいし、料理人のおいしさの基準を知るチャンス。大変だけど面白い」からだ。

 西野さんは、花みやこと都内のメンバーの店をアンテナレストランとし、県内の厳選食材を使った料理で上流層にアピールしていく。7月からは母校の辻調理師専門学校(大阪)で、ローカルガストロノミーの講座も担当する。

 やる気のある生産者と一流の料理人が切磋琢磨(せっさたくま)すれば新しいガストロノミーが生まれる。それが分かる客層を対象にすれば、生産者も店も利益を出せると説く。「10年以上はかかるでしょう。でも、種をまいて育てなければ変わらない。もうすぐ還暦だし、自分の技術や知識を伝えるのが使命です」