小豆島遍路の未来 新しい種を

通訳ガイド・細川治子
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 【香川】4月、小豆島遍路に出かけた。島内88カ所の札所を歩いても1週間でまわれると知り、コロナ禍でなまった身体を鍛えるにはちょうど良いと考えたのだ。だが、予想外にきつかった。起伏に富んだ地形のため高低差があり、急峻(きゅうしゅん)な岩場に立つ山岳霊場が多いのが小豆島遍路の特徴である。

 山岳霊場に登るたび、急な山道か、つづら折りの長い車道を歩くか、悩んだ。足が疲れにくいのは山道だが、「イノシシが出る」と警告する人がいたからだ。

 人里との境界には、必ずイノシシよけの鉄扉があった。恐る恐る扉を開けて山道を進むと、そこには自然や歴史が息づく遍路空間が広がっていた。巡拝記念の石碑や朽ちた廃屋が時の流れを感じさせる一方、枝打ちがされていたり、木に新しい道標の札がかけてあったり、人の手が最近入った痕跡も見かけた。

 マスクを外して深呼吸し、新緑の林をひたすら歩く。すると下界の憂いを忘れ、身も心もリフレッシュ。幸い、イノシシには一度も遭遇しなかった。

 それにしても遍路シーズンだというのに、人影がほとんどなかった。小豆島はかつて香川県外からの巡拝団体が多いことで知られたが、メンバーの高齢化により激減しているという。コロナもあって、私が遭遇したのは1団体だけだった。

 高齢化は、受け入れ側の島にも影を落とす。ある札所のお接待所で、お茶を出してくれた80代の男性は「毎日の当番を確保するのもひと苦労。若い人は島に戻ってこんのや」と嘆いた。島の遍路宿も数えるほどになり、宿から宿へ長い距離を歩かなければならなくなった。

 巡拝者が減れば、地域のインフラも細り、さらに巡拝者が減るという悪循環を招く。四国遍路にも共通する課題だ。遍路道はいずれ消え、イノシシの天下になってしまうのだろうか。

 答えを求めて、山岳霊場の2番札所・碁石山に向かった。堂守の大林慈空さん(45)は遍路の普及や情報発信に熱心な若手僧侶だ。島外に巣立つ若者を対象にした「卒業遍路」を発案し、私は新聞記者時代に同行取材させてもらった。

 「地域活動という寺の役割の原点に戻り、若手僧侶らで遍路道を整備しています。そのうえで新しい種をまかなくてはならない。旅行会社とタイアップしたり、外国人を受け入れたりするのも一案」と話してくれた。

 その夜、海岸沿いにある「セン・ゲストハウス」に泊まった。オーナーのアイエアナロン夫妻はお遍路さんに人気の松山の宿をたたんで、2018年に移住。島でも遍路の素晴らしさを伝えようと、英語併記の歩き遍路地図を作った。これが道中とても役立った。

 小豆島遍路は外国人に受けるかどうか、アメリカ出身の夫・マシューさんに聞いてみた。「可能性はある。道をよくしたり、標識をわかりやすくしたりする必要があるけれど」

 時代に合わせた遍路のあり方を考える時に来ている。(通訳ガイド・細川治子)