山道・古道てくてくロングトレイル 自然と人々ふれあい楽しむ

西崎啓太朗
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 歩く旅を楽しむ「ロングトレイル」の整備が、茨城県北部で進んでいる。登山道やハイキング道、里山や田んぼのあぜ道をつなぎ、2026年春までに全長320キロのコースを完成させる壮大な計画。地域の豊かな自然や歴史、文化に触れられるのが魅力だ。

 「茨城県北ロングトレイル」は6市町にまたがり、内陸部を1周する。県が19年から整備を始めた。アウトドア用品販売会社の「ナムチェバザール」(水戸市)に委託し、同社が募ったボランティア約560人が、交代で月に2度、下草を刈ったり、倒木を撤去したりして道を整えてきた。

 今年3月には袋田の滝大子町)と竜神峡(常陸太田市)などを結ぶ39キロが開通。整備済み区間は53キロになった。今年度は御岩(おいわ)神社(日立市)や花貫渓谷(高萩市)を通る52キロを開く。

 仕掛け人はナムチェバザールの和田幾久郎社長(54)だ。もともと茨城県内で長距離の山歩きをしていた。「身近な場所なのに遠いところを旅してきた気分になり、楽しかった」。これも茨城の魅力だと気づき、15年ごろ、ロングトレイル整備を県に提案した。

 コースには、人々が徒歩で別の集落に移動する際に使っていた山中の古道も多い。和田さんは「古道を歩くと、できるだけ高低差をなくすように道をつくった昔の人の知恵や苦労を感じ、思わず当時の生活を想像してしまう」と話す。

 ただ、大半の古道にはやぶが生い茂り、道標もない。地図がしっかり読めないと遭難する危険性が高いという。そんな山に初心者でも入れるようにコースを整備し、道標を立てる。

 「でも、道をつくるのが目的ではありません。めざしているのは、ロングトレイルを歩いた人たちと地元の人たちに関係性が生まれ、新たな文化ができ、地域の振興になることです」

 コースのあちこちに小さな集落がある。常陸太田市上高倉町の持方集落は約10世帯の小さなコミュニティーだ。ここでは、コンニャクやシャモを生産している人々がいる。「都会の人であればあるほど、全く違う生き方にインパクトを受け、自分の生き方を考え直すのではないか」

 ロングトレイルの整備を進める中で、和田さんは中東ヨルダンを南北に縦断する「ヨルダントレイル」が気になっている。

 全長650キロ以上あり、15年に完成。通して歩くと40日ほどかかる。コース上には映画「インディ・ジョーンズ 最後の聖戦」のロケ地になった世界遺産のペトラ遺跡や南部の砂漠ワディ・ラムがあり、19年には世界の約6万人が歩いた。

 昨年11月、同国の元観光・考古相のリーナ・アンナーブ駐日大使を招いて県庁で講演会を開いた。アンナーブ大使は「人々が来たいと思えるロングトレイルにするには、物語を持つことが大切」と語った。

 県北ロングトレイルのコースにも、戦国時代の城跡や地元の人が語り継いできた民話がある。和田さんは「良いコンテンツはたくさんあるので、ロングトレイルに生かしたい」と話す。(西崎啓太朗)

     ◇     ◇ 記者も4月、新たに開通したコースの歩き初めに参加し、約40人と竜神峡近くの約2キロを歩いた。まず道標についたQRコードをスマートフォンで読み取り、地図上で位置を確かめた。

 記者も4月、新たに開通したコースの歩き初めに参加し、約40人と竜神峡近くの約2キロを歩いた。まず道標についたQRコードをスマートフォンで読み取り、地図上で位置を確かめた。

 常陸太田市がつくったハイキングコースを元に再整備された山道を歩く。ほどよいアップダウンはすぐに終わり、急勾配の道をひたすら登る。体中から汗が噴き出した。ボランティアから「ゆっくりでいいですよ」と声をかけてもらい、時には木の幹につかまりながら、一歩一歩前をめざした。山道の脇には小さな青い草花が揺れていた。

 一緒に歩いた日立市の会社員千浜淳一さん(57)は「幅広い年齢層の人が楽しめるのがロングトレイルの魅力。歩きながら、自然との共生を考えることができるのも良い」と話す。

 40分ほど歩くと、山あいに数軒の民家が並ぶ赤岩集落に着いた。ここからは舗装路を進む。満開の桜の木の下で、90代の女性が友人とおしゃべりしていた。

 聞くと、集落の住民は全員80歳以上だという。女性は「ふもとの県道からは離れていて不便だけど、住み心地はいいよ」と話す。竜神峡までの山道はかつて生活道路の一つだったことを教えてくれ、「また遊びに来てね」と送り出された。歩いたからこそ、生まれる出会いがある。