「在日の歴史、勉強して」 ウトロ放火・初公判、住民らの思いは

小西良昭、徳永猛城、小松万希子 富永鈴香
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 二度と繰り返さないでほしい――。京都府宇治市のウトロ地区の住民や関係者からは、そんな思いがあふれた。昨年8月に起きた放火事件などの裁判が16日、京都地裁で始まった。在日コリアンの歴史が紡がれてきた地で起きた事件に司法がどう向き合っていくか、注目が集まっている。

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 「いつ理不尽な被害にあうか分からない。その現実を司法の場で問いただし、向き合うことが問われている。二度と、差別が理由で傷つけることがないようにしなければいけない」。ウトロで4月に交流施設「ウトロ平和祈念館」を開いたウトロ民間基金財団の郭辰雄(カクチヌン)理事長(55)は、初公判後の記者会見でこう訴えた。

 検察が冒頭陳述で、非現住建造物等放火罪などに問われた有本匠吾被告(22)が「前から韓国人に対して悪感情を抱いていた」と指摘した点について、郭さんは「在日コリアンという属性に基づいた差別感情だ。悪感情という言葉で表現できるものではない」と住民の思いを代弁した。

 ウトロには戦時中、国策の飛行場建設のために朝鮮人労働者らが集められて住み、在日コリアンのコミュニティーができた。地権者に土地明け渡しを求められたが、住民は土地の一部を買い取り、公的住宅の建設も進められている。

 初公判では、被害住民の供述調書が証拠として読み上げられた。その一つは、出火した空き家の隣に住んでいた飲食業、大西磯(いそ)さん(47)の調書だ。

 大西さんは夫婦と知人の3人で愛犬のパグを抱いて逃げたが、パグは翌日死んだといい、「家族の一員が亡くなったという思い。代わりの犬を飼う気になれない。パグを見ると涙がこみ上げてくる。同じ人間同士で助けあって生きるべきなのに」と取材に話した。

 現場の空き家の向かいに住み、火災で自宅の雨どいや網戸が溶けた在日2世の白岩一宏さん(80)は、有本被告について「なぜ在日がいるのか歴史を勉強してほしい。地元で謝ってほしい」と取材に話した。憎悪や偏見に基づくヘイトクライムについて「うやむやにせず、防ぐ法律を作ってほしい」とも語った。

 次回の裁判は6月7日で、被告人質問が予定されている。(小西良昭、徳永猛城、小松万希子)

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 有本被告は黒いスーツに白シャツ姿で初公判の法廷に現れ、「事実として認めさせてもらいます。間違いございません」と、裁判官に起訴内容を認めた。真っすぐ前を向き、時折うなずきながら検察官や裁判官の話を聞いていた。

 検察は、犯行の根底に「韓国人への悪感情」があったと指摘しており、今後の動機の解明に注目が集まる。ただ、この日の法廷で、有本被告にこれ以上の発言の機会はなかった。

 一方、閉廷後、有本被告は京都拘置所(京都市伏見区)で朝日新聞記者の面会に応じ、満席の傍聴席を見て「思った以上に事件に対する社会の関心が大きいと思った。正直緊張した」と振り返った。

 検察が冒頭陳述で指摘した事件の経緯は認めつつ、「総じてヘイトクライムである、とまとめられていた。そこの見方は改めていただく必要が生じると思う」とも話した。ウトロ住民の「不法占拠」を問題視して放火したと、これまでの面会取材で語っており、ヘイト感情だけによるものではないとの主張だ。

 また、証拠調べで、ウトロ住民は不法占拠ではないとの地権者の証言が紹介されたことについては、「地区の背景は私の口から申し上げるつもり」と述べた。

 検察が読み上げた被害者の供述について、大西さんが飼っていたペットが死んだことには「一つの生命が犠牲になったことは深く反省すべきだと思っている」と語りつつ、住民への謝罪の言葉はなかった。

 今後の裁判については「日本人と韓国人の関係性に少なからず影響する。何を問題にして起こした事件か伝えなければと思う」と話した。(富永鈴香)