越境留学したのにひとりきりに 女子野球部員を救った「わくわく」

有料会員記事

吉村駿
[PR]

 4月、北風が強く吹く前橋市利根川沿いにあるグラウンド。2人の女子高校生がユニホーム姿で白球を追っていた。

 「私たちも絶対にあの舞台に立つんだ」

 高校野球の聖地・甲子園兵庫県西宮市)をめざすため、彼女たちは群馬にやってきた。

 2人のユニホームには黄色で「Wasegaku」の文字。前橋市にある、わせがく高校前橋キャンパスの女子硬式野球部だ。昨年4月に群馬県内で初の女子硬式野球部としてスタートしたばかり。週末は県外のチームと試合や合同練習を行い、平日は放課後に4時間ほど、じっくり練習を行う。

 練習を引っ張るのは井上心暖(こはる)主将(2年)だ。

 兵庫県小野市出身。野球好きの兄の影響もあり、小学生のころからプロ野球選手になることが夢だ。だが中学校では、野球部に入る女子はいなかった。「野球に似ているから」と女子ソフトボール部に入った。

 中学卒業後は、京都府内のソフトボールの強豪高校に進んだ。だが、ある日、ニュースで見た光景に目を奪われた。

 夏の女子高校野球大会の決勝が甲子園球場で開催されることを知ったのだ。「あの甲子園に女子も立てるのか」。女子野球部のある高校に転校することに、迷いなんてなかった。

兵庫から群馬へ 「甲子園めざす覚悟決めるため」

 地元にも、女子野球の強豪高校はあった。だが「甲子園をめざす覚悟を決めたかった」。昨年7月、親元を離れ、少人数でとことん野球に打ち込める「わせがく」を転校先に選んだ。

 硬式球はソフトボールより小さく、遠くに打球が飛ぶ。グラウンドも広い。「野球のスケールに驚いた。こんなに楽しいのかと」。部員は3人だけだったが、その分練習量は多い。守備も打撃も少しずつ、上達するのを感じた。

 楽しいことばかりではない。井上さんは1人きりになってしまったのだ。

 冬場は30分間走に腕立てと、体力強化のきつい練習が続く。そんな時、そばにいるはずの仲間がいない。練習後、寮に戻ると、寂しくて涙が止まらなかった。

 年明け。横井内秀治監督(29)に泣きながら電話をかけた。

 「1人は寂しいです。兵庫に帰ります」

 監督はこう答えた…

この記事は有料会員記事です。残り744文字有料会員になると続きをお読みいただけます。