綾辻行人「十角館の殺人」 驚きの謎解きで本格ミステリーの新定番に

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野波健祐
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 後にバブル景気が始まっていたとわかる1987年秋、26歳の大学院生による1冊のミステリーが世に放たれた。綾辻行人『十角館の殺人』。孤島に立つ奇妙な館で起きる連続殺人という、戦前の欧米探偵小説を思わせる「謎解き」の物語は、結末の驚きもあり、じわじわと好事家の心をつかんでいった。

 とはいえ当時のミステリー界で、謎解きを主軸にした「本格」ものは傍流だった。新聞に載るような事件を刑事たちが地道に捜査して解決に導く、リアリズム重視の「社会派」が主流を占めていた。

 代表格である松本清張は随想『黒い手帖(てちょう)』(61年)で、探偵小説を「〈お化(ばけ)屋敷〉の掛(かけ)小屋」からリアリズムの方に出したいと表明、名探偵がこまごまと謎解きを披露するような呪縛から解き放つことで、推理小説が文学として成熟するとの思いを記した。

 孤島や屋敷を舞台にした本格もので知られた横溝正史が70年代後半、映画により再評価されたとはいえ、社会派の呪縛は続いていた。綾辻さんは執筆時の思いをこう話す。

 「僕はそれが寂しかった。名…

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