政治家の記者会見で、激しいやりとりが減ったと感じる。そんな中、著書「何が記者を殺すのか」を出し、上映中のドキュメンタリー映画「教育と愛国」で監督を務めた毎日放送(MBS)ディレクターの斉加尚代さん。「萎縮するメディア」の背景には何があるのか。足を使って現場を回り続ける記者の先輩に、話を聞いた。
毎日放送ディレクター 斉加尚代さん
1987年に毎日放送入社。報道記者を経て2015年から現職。テレビ版「教育と愛国」でギャラクシー賞テレビ部門大賞。
――映画「教育と愛国」では、政治の力で変化させられていく教育現場が描かれていますね。
「この映画は、2017年に放送したドキュメンタリーを元に追加取材を加えたものです。私は大阪で長く教育現場を取材してきましたが、10年に大阪維新の会ができて以降、政治主導の教育改革が進みました。その変化が思いのほか速いなと感じていたころ、国が道徳を教科化することになった。そして戦後初めて作られた小学校の道徳教科書で、『パン屋』を『和菓子屋』に書き換える、ということが起きました」
「一見、滑稽な書き換えです。文部科学省の教科書検定を受け、教科書会社が修正したものでしたが、06年度の高校日本史の教科書検定を受け、沖縄戦の集団自決について『軍の強制』との記述が削られた問題とつながっていると私は感じました(その後、『軍の関与』などとする記述が復活)。それで教科書会社へ取材を申し込みました」
――どのような反応でしたか?
「ほとんどの社から『教育と愛国というテーマでは難しい』などと断られました。ある社の編集者が受けてくれたのですが、それも放送前にストップがかかりました。その方の話で印象的だったのが、文科省から『スタンダードな授業ができるように』と要請されたという話でした。スタンダードとは、発問からまとめまでどの授業でも同じように進める、という意味です。これまで取材してきた先生たちの『授業は生き物。クラスが違えば授業も違う』という実践とは、かなりズレがあるなと感じました」
「そんな中、自虐史観の克服を掲げる『新しい歴史教科書をつくる会』系の育鵬社で歴史教科書の代表執筆者を務める歴史学者・伊藤隆さんが取材を受けてくれました。話が熱を帯びてきたところで、育鵬社の教科書が目指すものを尋ねると、伊藤さんは『ちゃんとした日本人を作ること』とおっしゃいました」
「教育と愛国」は、ドキュメンタリー映画に好意的な映画館からも上映を断られたといいます。大阪市長時代の橋下徹さんへの取材では一時、「反日記者」とネットで叩かれたこともある斉加尚代さん。記事後半では、政治や経済との関係を踏まえ、メディアが萎縮する構図をさらに解き明かしていきます。
――ちゃんとした、ですか。
「『左翼ではない』と断言さ…
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