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高齢者施設次への備えは コロナ対応、職員の「使命感」頼み

北沢祐生
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 新型コロナウイルス感染の「第6波」が特別養護老人ホーム「穂波の里」(新潟市西区)を襲った。感染力の強いオミクロン株が猛威を振るっていた2月のことだ。

 1人の発熱をきっかけに、抗原検査で一気に4人の陽性が判明。90代の入居者に38度を超える高熱が出たため、救急要請を保健所に相談したところ、「血中酸素飽和度は低くないから呼ばないように」と返ってきた。家族の要望を受けて調整を重ね、新潟県村上市内に車で1時間かかる病院がようやく見つかった。入院できたのは2日後だった。

 施設内での感染拡大を防ぐ対策が急務だった。農業用のビニールシートを天井から垂らし、感染者が出た1階と出ていない2階などを区分けする急ごしらえの「ゾーニング」をした。入居者に対応する職員もフロア別に分けることにした。

 施設には、入浴やトイレの介助が必要な要介護度3以上の80人が入居し、90代が6割。ほとんどの人に認知症やそれに近い症状があり、マスクを着けないまま歩き回る人が少なくなかった。環境の変化に感情をあらわにして食事をとらなくなる人もいた。寄り添う職員は常に「密」な状況に置かれた。

 感染は職員にも広がった。妊娠中の妻や幼い子にうつすまいと帰宅を拒んだ職員がいた。別の職員は、家族をホテルや実家に移動させて自宅で療養した。陽性がわかり、「こんな大変なときにすみません」と泣きながら謝り続ける職員もいた。

 「全員が感染するまで終わらない」。施設長の古藤悦子さんは覚悟した。

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 全国で爆発的に感染が拡大した第6波。病床が急速に逼迫(ひっぱく)するなかで、各地の高齢者施設は感染者を施設内で療養させることを迫られた。

 新潟県でも、「陽性者を全員入院させれば医療崩壊を招く」として施設内療養が進められた。オンライン診療を導入するなど環境整備も図られていたが、日常生活も意思疎通も難しい要介護者の多い現場で、感染拡大を防ぎ、命を守るのは容易ではなかった。

 穂波の里では入居者16人、職員11人に広がった。3月、食事ができなくなり点滴を受けていた入居者2人が亡くなった。面会が制限されたまま、家族はカーテン越しに最期をみとった。

 反省を踏まえ県は、高齢者施設への医療支援を強化する。施設専用の相談窓口を新設し、医師がいない施設には点滴などを担う医師を派遣できる体制を構築。クラスターが起きた場合に施設間で応援の看護師らを融通し合う仕組みも充実させる。

 3年ぶりに行動制限のなかったゴールデンウィーク。県内外からの大勢の人でにぎわった観光地や飲食店をはた目に、穂波の里の運営法人の幹部はこぼした。「一体私たちは何のためにやっているんだろう」

 「自粛」が続く施設では、職員が陽性になったときのための行き場にアパートを2室借りた。「職員の使命感に支えられている」。古藤さんは言う。

 次への「備え」は十分か。社会が問われている。(北沢祐生)