「日銀の言葉、軽くなった」 物価のプロが見たアベノミクス後の9年

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聞き手・筒井竜平
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 ガソリンや食料品など、暮らしに直結するモノの価格が上がっています。総務省が20日発表した4月の消費者物価指数(CPI)は、値動きの大きい生鮮食品をのぞいた総合指数が前年同月より2.1%上昇。消費増税の影響があった期間をのぞけば13年7カ月ぶりの上げ幅でした。物価が上がらないデフレに長年悩まされてきた日本で、何が起きているのでしょうか。売れ行き好調な「物価とは何か」(講談社)の著者で、東京大学大学院教授の渡辺努さんに聞きました。

 ――日本では約30年間、物価が上がらない状況が続きました。なにが原因ですか。

 「1990年代に金融危機が起きて消費者の財布のひもが固くなり、企業は商品の価格を上げずに据え置くようになりました。当時としては正しい判断だったと思います。ただ、2000年代になって危機から脱しても、価格の据え置きを続けてしまった。その結果、消費者は『将来の物価は上がらない』『インフレは起きない』と思うようになりました。だから、企業は商品の価格を上げたくても上げられないのです」

 ――本来なら危機を脱したタイミングで、物価が上昇基調に戻る可能性もあったのでしょうか。

 「日本銀行や政府が当時、『これから物価も賃金も上がりますよ』というメッセージを出すべきでした。私は99年まで日銀に勤務していましたが、金融危機で証券会社や銀行がつぶれ、大騒ぎでした。それが一段落したとき、『ああ、よかった』というムードが強かった。物価は乱高下しているわけでもなく、たいした問題だとみていませんでした。結果論ですので、当時の政策を責めることはできませんけども」

 ――逆に、もっと大きく物価が下落していれば、違った結果になっていたかもしれませんね。

 「1930年代、米国は年8%ものデフレ(物価下落)に見舞われました。急激に賃金も下がり、失業者も増えた。社会的な混乱が大きかったからこそ、当時のルーズベルト大統領は価格を申し合わせる『カルテル』を容認してまでデフレ脱却を急いだのです」

物価停滞、イノベーションの邪魔に

 ――そもそも、これまでの日本のように物価がほぼ動かないのは悪いことですか。物価が安定しているとも言えませんか。

 「物価とは『蚊柱』のような…

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