「ケアしていても自分の人生を」 ケアラーのネットワーク発足

原田達矢、北村有樹子
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 子どもや障害者、高齢者の介護を担う支援団体の代表者らが、介護する人を支える「ケアラー支援条例」の制定に向けネットワークを立ち上げた。勉強会やニーズ調査を通じ、「ケアをしても自らの人生を生きられる社会の実現」を目指す。

 発足したのは、「ケアラー支援条例をつくろう!ネットワーク京都」(京都ケアラーネット)。認知症や障害者の介護を担う家族の会やヤングケアラーなど、さまざまな世代や立場の13団体、16人が共同代表として名を連ねた。介護(ケア)を社会全体で支えるための条例の制定を目指す。 全国では、条例制定の動きが広がり始めている。埼玉県は2020年、ケアラーを社会全体で支えるため、県に総合的な支援計画の策定を求める条例を施行。第1条に「ケアラーが健康で文化的な生活を営むことができる社会を実現すること」と目的を明記している。これまでに、九つの自治体で制定されているが、近畿ではまだない。

 同ネットは、市民や議員も参加する公開勉強会を開いたり、支援のニーズ調査を実施したりする。府や京都市、議会などに働きかけ、今後3年間で条例の制定につなげたいという。ケアラーの定義や支援体制、人材育成が条文に盛り込まれるよう要望していく方針だ。

 共同代表の一人で立命館大教授の津止正敏さん(68)は「議員発でなく、ケアの当事者が中心となって動くのは画期的。ケアを家族に過剰に背負わせず、社会全体で支える仕組みづくりにつなげていきたい」と話した。

 発足イベントが、22日午後1時からキャンパスプラザ京都(京都市下京区)で開かれる。日本ケアラー連盟の堀越栄子代表理事の講演やパネルディスカッションを予定。オンラインの参加申し込みは、同ネットのメール(carerkyotoactionnet@gmail.comメールする)へ。

社会全体で支える SOSキャッチ

 ネットワークの理念は「介護を担いながらも、自分の人生を生きる」。共同代表の一人、河西優さん(24)は、小学校高学年から統合失調症の母の世話をしてきた。当事者として若いケアラーの支援について発信する団体の発起人をつとめる。

 「ヤングケアラー」に関心が集まるが「年齢で対象が区切られていることに違和感がある」という。「18歳未満の子ども」とされているが、その後も学業や就職などに影響が出てくるのが実態だと説明する。自分も含め「進学や就職で家を出ること」に悩んだ経験を持つ仲間が多い。社会人になってからケアを担う人の方が大多数だ。年齢に関係なく、すべてのケアラー支援を充実させてほしいと考える。「ケアを担っても自分の人生が歩みやい社会になってほしい」と話す。

 呼びかけ人の津止さんは、「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」事務局長として、男性ケアラーが集うコミュニティー作りを提唱してきた。40~50代の参加者からは仕事と介護の両立の難しさ、離職時の家計への影響の大きさを訴える声が多い。「介護と仕事を両立する人が増えているのに、社会ではいまだに特殊とされがちだ」

 埼玉県では、ケアラー支援条例の制定後、30社近くの事業者らが「ケアラー支援宣言」を掲げ、仕事と介護の両立に向けた研修を行う企業が増えたという。神奈川県は今年度から県社会福祉協議会に委託し、ケアラーを支援する窓口や関係機関をつなぐ専門員を2人置く。「ケアラーを支援しない企業や行政はおかしいと言える社会を作っていきたい」と話す。

 障害児のケアに30年近く関わる池添素さん(71)は2020年に京都市内で起きた、母親が知的障害のある長男を殺害した事件をきっかけにケアラーの支援を考え始めたという。

 裁判を通して、重度の知的障害で排泄(はいせつ)や着替えに介助が必要で暴力を振るうこともあった長男を女性が一人で育てるなかで、息子の進路に悩み、SOSも出せず絶望感を深めていったと感じたという。

 昨年から、障害のある子どもがいる家族とともに、ケアラーのSOSをどうキャッチするか、考える会を始めた。参加者の声を聞くうちに「自分にも起こり得ることだ」と、事件の状況は特殊な事例ではないと思うようになった。「家族だから当たり前とか、頑張ったら立派でなくて、しんどいときちんと言える社会になってほしい」と話す。

 40年以上の歴史がある認知症の人と家族の会の鈴木森夫代表理事は、介護保険制度ができていろんなサービスが選べるようになったものの、家族の負担はなかなか減っていないと感じる。最近は「介護と仕事の両立」に悩むケースが目立つ。働きながら実子(息子・娘)が介護を担うケースが増え、キャリアアップをあきらめたり、転勤が難しかったりして離職につながる人も少なくない。「介護者への支援は本人支援とともに重要だ。介護者にも人生があり、人間としての尊厳が守られるべきだという考えを広げていきたい」(原田達矢、北村有樹子)

各自治体のケアラー支援条例(カッコ内は施行日)

【都道府県】

・埼玉県ケアラー支援条例(2020年3月31日)

茨城県ケアラー・ヤングケアラーを支援し、共に生きやすい社会を実現するための条例(21年12月14日)

・北海道ケアラー支援条例(22年4月1日)

他6市町で制定