褒められる=裏がある? 自信のない人が陥りやすい考え方の悪循環

中島美鈴
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 みなさんの身近に「自信が持てない人」はいますか? 配偶者や部下や子どもなどに、自信を持ってもう少し幸せそうに人生を歩んでもらいたい。もう少し積極的に動いてもらいたい。もっといえば、いちいちささいなことで凹(へこ)まずにいてもらいたい、なんて思うこともあるかもしれません。

 今回は「自信が持てない人」が陥っている悪循環についてご紹介します。

自信のある人は、ますます自信がつく

 突然ですが、人が上司や友達、親や店員さんに褒められたり、高い評価を受けたりしている場面を想像してください。

 自信がある程度ある人は、「ありがとう」とお礼を言ったり、謙遜しながらもうれしい気持ちになったりします。

 そして元々ある程度あった自信が、ますます増強されます。

 このように人間は、もともと「私はできる」と思っている人に、「できますよね」と一致した情報が評価としてもたらされると、すぐに信じられるという傾向を持っています。

 人は「自分がこうだ」という自己概念を誰しももっていて、専門的にはこれをスキーマといいます。人は、スキーマに一致した情報を信じると言われています。

 なので、自信のある人間は褒められるとますます自信をつけるという、とても幸せな循環が生まれています。いいですよね。

 ということは、元々自信のない人が、褒められる場面になると、ちょっと違う循環が起こりだすのです。

 「自分はできない」と思っているところに、それと一致しない情報「あなたはできますよね」が入ってくるのです。そうすると、次の四つのような代表的な認知のゆがみが生じて、そうすんなりと中に入ってこないわけです。

 1:ほんとの自分を見せていないから、より頑張らねばと緊張する

 2:裏があるんじゃないかと疑う

 3:お世辞や同情だと解釈して、評価を割り引いてとらえる

 4:こんなとるに足らないこと誰だってできると最小化する

自信のない人は「裏があるのでは」と疑う

 ひとつずつ見ていきましょう。

1:ほんとの自分を見せていないから、より頑張らねばと緊張する

 これは普段気を張って、人に自分のできていないところを見せないようにしている人に起こりがちです。

 褒められると「本当の自分はだらしないのに、この人は私の本当の姿を知らないからこんなふうに褒めてくれるんだ。ますます本当の自分を隠してきちんとしていなければ」と気を引き締めてしまいます。

 演じている仮の姿の自分しか褒められていないと思っているので、くつろげないし、うれしくないのです。

 本当はありのままの自分を見せても意外と人が離れていかないとか、案外人と仲良くなれたりする、という体験ができればいいのですが。

 こういう時は、少しずつでいいので、気を抜いた自分も見せていく実験をするとよいでしょう。

 新年度、新しい環境に身を置いている人も多いはずです。そうした時こそ、これまで背負ってきた「しっかり者」「完璧な人」なんていうレッテルを自分から脱ぎ捨てるチャンスです。

2:裏があるんじゃないかと疑う

 これは、あまり褒められると、「自分はできない」はずなのにおかしい! 相手に裏の魂胆があるに違いないと深読みすることです。

 大人の世界では、多少はあると思いますが、警戒しなくていいはずの相手にまで裏を読み続けていると、やがて、「あの人が私と仲良くしてくれるのは、私がいつもあの人に差し入れをしてあげているからだろう」などの、条件付きでしか人は自分を愛してくれないのではないかという不安にとりつかれるようになります。

 そうすると、最後には、常に周りの人にプレゼントをしたり、おごってあげたりしないと心配でしょうがなくなり、周りに人がいるのにずっと心は孤独であるという状況に陥りかねません。

3:お世辞や同情だと解釈して、評価を割り引いてとらえる

 これは、相手はお世辞で評価を言ってくれているだけだとか、同情して言ってくれているだけだというように解釈し、相手の褒め言葉を割り引いてしまうことです。

 化粧品売り場のカウンターで「お客様のまつ毛は長くてきれいですね」とせっかく褒められたのに、「この美容部員さんは、私に商品を買って欲しいからお世辞を言っているだけだ。私は肌もきれいじゃないし、美人でもない。まつ毛ぐらいしか褒めるところがないから、気の毒に思ってそういっているんだろう」と考えてしまうのです。

 これでは警戒しかできませんね。もちろん商品をおすすめするのは、美容部員の仕事ですから、お世辞の要素もゼロとはいえませんが、ここまでネガティブにとらえる必要も本来ないはずですね。

4:こんなとるに足らないこと誰だってできると最小化する

 これは、自分が既にできていることは、自分みたいな「できない人間」でも時間をかけて努力したらできたものであり、「たいしたことない」と過小評価してしまうパターンです。

 頑張って身につけたはずのエクセルの技能であっても、もともと自信がない人は、「私にもできるんだから、誰だってできるだろう。たいしたことないんだ」と捉えてしまいます。そのため、褒め言葉がシャットアウトされてしまいます。

 ここまでくると謙遜とは度合いが違うことが、おわかりいただけたかと思います。

自信をつけるには、まずクセを知る

 さて、自信が持てない人の悪循環ばかりを紹介してきましたが、「じゃあ、どうしたら自信をつけさせてあげられるのだろうか」という疑問が湧いてきますね。

 まずはご本人がこれらの四つの癖を知っておくことが大切です。自覚は、いつでもスタートラインに立つ際に必要です。そして、次に誰かに褒められた時に、自分が「おっと、また割り引いている」とか「おっとまた裏を読んでいる」と、タイムリーに気づくことが大切です。

 そして、気づいたら、「割り引かなくてもいいんだ。いったん褒められたって受け取ろう」とか「たとえ裏があったとしてもその結果どうなるっていうんだ。ひとまず受け取ろう」などと捉え方を修正するのです。

 長年慣れ親しんできた捉え方の癖なので、なかなか新しい方法で捉えるのはピンと来づらいかと思いますが、徐々に練習すると見えてくる世界が変わりますよ。

 認知行動療法ではこんなふうに悪循環を少しだけいい循環に変えていきます。

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中島美鈴
中島美鈴(なかしま・みすず)臨床心理士
1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。