魚も洋梨もおいしいのに…新潟県と言えば米「政策の失敗」指摘も

茂木克信、西村奈緒美
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 「はい、ヒラメの1・5」。競り人の声に仲買人がすぐさま応じる。「ニーニーで34番!」。わずか数秒で、1・5キロ入りのヒラメの箱が1キロ2200円で落札された。

 6日、新潟県糸魚川市能生(のう)にある上越漁協の市場。2千個を超す発泡スチロール箱が所狭しと並ぶ場内で、威勢のいいやり取りが交わされていた。

 「モノが良いので高値がつく」と底引き網船長の磯谷(いそがい)光一組合長(64)は自信を見せる。能生漁港の沖合わずか15分ほどの距離から水深300~400メートルの好漁場が広がり、船1隻の水揚げが4千万円を上回る年もあるという。「若い漁師も多い。後継者難ではなく、就業希望者の就業難だ」

 課題もある。富山県境に近い漁協まで、遠く離れた県内の一大消費地、新潟市長岡市から仲買人をいかに呼ぶか。そのために漁獲情報をいち早く提供できるようにしようと、所属する底引き網漁船全7隻に固定カメラを付け、リアルタイムで漁協に集約することを検討している。

 そんな試みを県は後押しする。今年度の当初予算に「漁獲情報共有モデル事業」として261万円を計上。具体策を詰めている。

 水産業界はじり貧状態が続き、県にとっても長年の悩みの種。消費者の魚離れが進んで魚価も低迷しており、県内の2020年の生産量は10年前の45%の約1万2千トン、生産額は59%の58億円余りまで減った。就業者もこの四半世紀で約3分の1になり、半数以上を65歳以上が占める。

 今後5年間の水産振興戦略では、柱の一つに「もやいプロジェクト」を据えた。漁業者と、流通や加工、小売り、飲食、観光などの事業者との間で情報共有を強化し、水産物の付加価値の向上をめざす。今年度予算のモデル事業はその第1弾だ。

 プロジェクトを活用し、「価値ある魚の適正評価」を図る構想もある。例えばキスに似た「ニギス」。キスを上回るとされるおいしさがありながら加工用として安値で取引されているという。磯谷組合長は「食べ方などの情報を消費者に届けることで魚の評価や値段は変わる。他の業種ともつながりを深め、情報発信を強化したい」と意気込む。

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 おいしいのに知名度はいま一つ。そんな例は漁業に限らない。

 ル・レクチェの一大産地、新潟・佐渡島。「西洋梨です、と説明すると、決まって『ラ・フランスですか』と聞かれる」。生産者の若林直樹さん(72)は苦笑いする。

 若林さんが約20人とともに生産を始めたのは30年ほど前。収穫から食べ頃に熟すまでの期間や病気を防ぐ方法を共有しながら、手探りで品質を高めてきた。

 とにかく手間がかかるのが難点だ。傷みやすいため出荷は手作業。生産量の少なさから機械の開発が進まず、機械化の遅れから生産量が伸び悩む。効率の悪さが敬遠されてか新たな参入はほとんどなく、生産者の高齢化が進む。

 農業政策の失敗との指摘もある。

 新潟県と言えば米。産出額全国1位で、県内の農業全体に占める割合は約6割と全国平均の3倍に上る。長らく米に依存する政策が推し進められ、需要や価格が低下するなかで転換が遅れている。

 県は24年までの園芸振興基本戦略で、「基本的な考え方」として「米だけに依存せず、もうかる農業の実現に向けて幅を広げる」と明記。一例にル・レクチェを挙げ、ブランド産品の牽引(けんいん)役となるよう大都市圏や海外への販路の拡大を進めるとしている。

 農業経営に詳しい新潟大伊藤忠雄・名誉教授は、「青森や山形、秋田県などが産出額を伸ばす一方、新潟県はじりじりと減らしている。米の『単作』から脱却し、付加価値の高い農業に早くにかじを切るべきだった。重点品目を決め、産地形成を一気に進めないといけない」と話す。(茂木克信、西村奈緒美)