体制に同意せざる者の行き場は 映画監督セルゲイ・ロズニツァに思う

有料会員記事ウクライナ情勢

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重田園江さん|現代思想研究者

おもだ・そのえ

専門は現代思想・政治思想史。明治大学教授。近著に「ホモ・エコノミクス」「フーコーの風向き」など。

政治季評

 ロシアによるウクライナ侵攻から始まった今回の戦争を考える上で、興味深い一つの例を紹介したい。

 セルゲイ・ロズニツァという映画監督がいる。1964年、ベラルーシ(当時のソ連)に生まれ、幼少期に一家でキーウに移住した。コンピューター科学者として勤務した後、モスクワの全ロシア映画大学で学んだ。サンクトペテルブルクで映画を制作し、今はベルリンに移住している。

 日本で知られているのは、ソ連政府が遺(のこ)した膨大なフィルムを編集した「国葬」「粛清裁判」や、ベルリン近郊の絶滅収容所跡を訪問する観光客を撮った「アウステルリッツ」だろう。今回の戦争で日本でも注目を集め、2014年のクリミア侵攻を撮った「ドンバス」が、5月21日から公開される。カンヌ国際映画祭の常連監督で、フレデリック・ワイズマン以来の才能をうかがわせる。

 その彼が、今年2月末にヨーロッパ映画アカデミー(EFA)を脱退し、さらに3月初めには、ウクライナ映画アカデミー(UFA)から追放された。ことの顚末(てんまつ)は、戦争とナショナリズム、政治と芸術、独裁政権反対者をロシア外からどう支えるかといった多くの問いを生む。

「望まれるのはナショナル・アイデンティティー

 まずEFA脱退について。今回のロシアの行為は侵略なのか、「特別軍事作戦」なのか。急な事態に面食らって態度を決めかねた人も多かった。そんななか、EFAは早くも2月24日、60名を超えるウクライナの会員に支援を約束する手紙を出した。だがそこには、ロシアの名称もその行為への直接の非難もなかった。ロズニツァはEFAの中立気取りと生ぬるさに怒り、より明確な態度を示すことを求める公開書簡を出して2月28日に自ら脱退した。

 これに驚いたのか、あるいは…

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