オール巨人もスベるしヘコむ 「俺らいらないんか」と悩んだ帰り道

照井琢見
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 漫才コンビのオール阪神・巨人は結成47年。なんばグランド花月(NGK、大阪市)ではトリを取る大ベテランだ。オール巨人(70)はこの春、「漫才論 僕が出会った素晴らしき芸人たち」(ヨシモトブックス)を出版した。「面白い漫才とは」と真剣に論じた巨人でも、スベるときはあるそうで。

【連載】笑いに生きる ~吉本110年~

芸のためなら己も泣かす。顔で笑って心で泣いて。今に見てみい。天下取ったる。ギラつく火花に照らされ、吉本興業は110周年を迎えた。夢も金ものみこんで、さあ、あほのてっぺんへ。

ほんまに悩んだ

 「こないだね、NGKで、木曜日の1回目公演やったかな。なんか『お客さん引いてるなあ』って。お客さんも、ちょっと重たかったんですけどね」

 「入り方が悪かった。最初のつかみを考えんと、適当に出て行ったこともあって。それで悩んだわ。ほんまに悩んだ」

 2人はいまも、劇場を大切にする。「絶対大丈夫や」というネタを、劇場でやると決めている。

 そして、スベった。

 「帰りの車のなかで、ほんまに悩んだ。これはもうあかんなあ、明日舞台怖いなあ。多分俺らもう、そろそろいらないんちゃうんか。それぐらいまで考えた」

わろてるかな?

 客席の顔ぶれによって、同じネタで爆笑を取る日もあれば、だだスベりする日もある。

 「たまにああなんねんね。こないだも、高校の修学旅行の子たちが、400人ぐらいおったかな。やっぱりそこら辺が『わろてるかな?』思いながら漫才やります」

 「うわーって手たたいてくれる子もいるし、ほおづえついて見てる子もいる。やっぱり中学、高校の団体さんがいるってなると、微妙に構えます。どうやって行こうかなと」

 そこまで悩むのも、真剣に舞台と向き合えばこそ。出番の日は、他の出演者のネタも必ず聞くという。

トリのこだわり

 「トリの仕事はすごくたくさんあるんです。芝居(新喜劇)につながなあかんし、前の漫才師と話が重なったらあかんし。僕、モニターでよくネタ聞いてるんです」

 劇場のことを一番考えている自負がある。持ち味の早口でまくし立てるようなしゃべくりだって、繊細なこだわりが詰まっている。

 「しゃべっとって、『あ、かんだな』とか『お客さんに届いてない』と思ったら、僕2回言い返しますからね」

 最も嫌うのは、そのこだわりを軽んじられること。先日、こんな場面があった。

 「一生懸命やってるのに、劇場の事務員さんに『ちょっと延びてますから、時間ちょっと考えていただきまして』言われて」

 つまり、練りに練ったネタを短くしろ、というのだ。

 「腹立ってね。どんな気持ちで俺らトリやってると思う? 君が悪いわけやないけども、開演が10分、15分遅れたのも俺らのせいちゃうやん。せめて支配人が最初に来いって、微妙に怒ったんですね」

爆笑がビタミン

 妥協を許さないのは、全てお客さんを笑かすため。ウケたら全てが救われる。

 「へこんだ次の日の1回目、お客さんがめちゃくちゃ良かったな。救われたわ、ほんまに。やっぱり舞台の爆笑、お客さんの爆笑はビタミン剤やね」

 「よう歌手の方、言いますやん。『お客さんから力もらった』って。僕らだって、ほんまにお金も力も、もろてます」

 ◆著書「漫才論」では、「心地いいリズムができているか」「迷ったら練習量で決める」といった、M―1審査の採点基準も明かす。ダウンタウンを初めて見たとき、2人の息と間に衝撃を受けたことなど、これまで出会ってきた芸人たちの思い出を紹介しつつ、自身の漫才人生を振り返る。税込み1650円。(照井琢見)