池井戸潤が迫る、製茶工場 摘みたてを24時間態勢で ハラダ製茶
「半沢直樹」シリーズなどでおなじみの作家、池井戸潤さんが仕事の現場を訪ねる企画が、朝日新聞土曜別刷り「be」で連載中です。今回はハラダ製茶(本社・静岡県島田市)を訪ねました。茶摘みシーズンまっただ中の茶畑や製茶工場で自ら作業も体験し、モノ作りの鍵にカメラとペンで迫ります。デジタル版では池井戸さんが撮影した写真をたっぷりご覧いただけます。
(文・写真 池井戸潤 映像報道部・杉本康弘、「好書好日」編集長・加藤修)
■列なす若葉 機械で一気に
新幹線の静岡駅からレンタカーで南西へ40分ほどにある静岡県牧之原市。丘陵地帯を切り拓(ひら)いた広大な茶畑にさんざめく5月の陽光が降り注いでいた。
この日取材をお願いしたハラダ製茶(静岡県島田市)が自社管理する圃場(ほじょう)である。
静岡のお茶作りは、江戸時代の終焉(しゅうえん)とともに職を失った武士によって本格化した。富士山の噴火によってできた酸性の土壌、水はけの良さがお茶栽培に向いていたのである。
ハラダ製茶の売り上げは216億円(2021年度)。緑茶市場(リーフ茶など)のメーカーとしての国内シェアは約9%、国内第2位の大手である。ちなみに、1位は伊藤園だ。
失礼ながら、シェアのわりに知名度がいまひとつなのは、同社の社業が、OEM(相手先ブランドによる生産)主体だからだろう。自社ブランドもあるにはあるが、その規模は売り上げの1割に満たず、多くは他社ブランドで売られているのだとか。お茶作りにひたすら情熱をそそぎつつも、販売面では裏方に徹しているのが同社の特徴だ。
整然と管理された茶畑を近くで眺めてみると、畝(うね)同士の間隔が狭いことに驚かされた。列をなす茶木の間隔は10センチもあるだろうか。これでは人が間を歩きながら茶摘みをするのは窮屈だ。そして茶木の形は、幾何学的といえるほど、美しい扇形に整えられている。
どうすればこんなに綺麗(きれい)な形に整えられるのかと思いきや、乗用の摘採機が稼働していた。
茶木をまたぐように畑に入れ、摘み取った茶葉を格納する収容箱も搭載。これで茶畑を往復すれば、人の手に頼ることなくあっという間に茶摘みの完了である。
あかねだすきに菅(すげ)の笠で茶を摘んでいた光景はいまは昔。機械化の波は茶畑にも押し寄せ、いずれこの機械すら無人で動くようになるに違いない。
「ちょっと乗ってみますか」
陣頭指揮の4代目、原田宗一郎社長にお誘いいただき、体験してみることにした。
ダンプの運転席ほど高い操縦…