「年収3倍」で誘われる車整備士 ユーザーが知らない車検の実態

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神山純一
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経済インサイド

 なじみの自動車整備工場から届いたメールに、横浜市の会社員男性(32)は目を疑った。

 「予約がいっぱいで、入庫は最短でも1カ月後になります」

 力強い走りで知られる愛車BMW「M3」のヘッドライトがつかなくなった。今春、この整備工場に修理できるか問い合わせたが、「予約で手いっぱい」と断られた。かつてなら1週間も待てば受け入れてもらえた。男性は車好きとして今後を案じる。

 「エンジンやタイヤの故障だったら、もっと困っていた。すぐに直せない状況が続くのなら、車を保有することも不安になる」

 埼玉県内を中心に整備工場を構える中嶋自動車工業(さいたま市)に、整備士を勧誘するこんな電話がかかってくるようになったのは5年ほど前からだ。

 「年収3倍を約束するので、別の工場で働きませんか」

 電話の主は自動車整備士を派遣する人材会社だった。

 中嶋自動車には、約30人の整備士がいる。「顔が見える整備工場」をめざそうと、店ごとのホームページ(HP)に整備士の写真と名前を載せていた。人材会社の担当者はそれを見て電話し、それぞれの整備士に取り次ぐよう名指しで依頼してきたのだ。

 「整備士が足りない工場が、そんなに多いのか」。中嶋自動車の佐藤孝・管理部部長(64)は整備士の応募人数が減り、採用が難しくなったと自身も感じていた。

 せっかく育てた整備士を引き抜かれてはたまらない。HPに掲載していた整備士の名前を、まずはイニシャル表記に変えた。

 「でも販売スタッフの名前は載っている。整備士だけ匿名なのに違和感があった」

 今年に入ってイニシャルも消し、HPに顔写真だけを紹介するようにした。勧誘電話はなくなった。

横行する「ペーパー車検」の実態は

 整備現場での人手不足は、車検制度そのものを骨抜きにしかねない不正にもつながっている。それで事故が起きれば、車の所有者だけでなく巻き込まれた人にまで害が及ぶ。

 「最近、『ペーパー車検』に…

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    江渕崇
    (朝日新聞経済部次長=日米欧の経済)
    2022年5月27日11時18分 投稿

    【視点】 デスクとしてこの記事を監修しました。人手不足であっても大幅な賃金上昇につながりにくい日本経済の体質が、この記事から浮かび上がります。  これほど整備士不足が深刻なら、業界全体の賃金水準が跳ね上がってもおかしくないのに、なかなかそうならな