原発事故11年 放射能測定いまも 西那須野幼稚園

核といのちを考える

小野智美
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 【栃木】2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故から11年余り。那須塩原市認定こども園「西那須野幼稚園」は、給食の放射能測定を毎日続けている。測定費用の一部は今年4月、国の原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)の仲介で、東電が賠償することに決まった。

 今月2日の給食は厚揚げと鶏肉の甘酢炒め、小松菜とカマボコのあえ物、手まり麩(ふ)のすまし汁とご飯。検出された放射性セシウムは0・00ベクレル(1キログラムあたり)だった。別の日とあわせて1週間分が、園庭の空間線量の測定結果と共に保護者だよりに載せられた。

 ホームページでも「放射線対策」のコーナーに、カレンダーに結果を書き込んだ一覧表を掲載している。12年2月以降の過去の記録は、今も毎月1~2人閲覧者がいるという。職員の加藤和美さんは「1人でも安心してくれたら。事故当時の園児は今は高校生。その子たちの安心につながるかもしれない」と話す。

 福本光夫園長が取り組みを始めたのは、園児400人以上が食べる給食の安全を確保するためだった。

 事故後、ただちに白飯を古米に切り替えるなどし、他の食材も産地を見直した。ただ、職員も含め約600人の大規模給食で加工品も使うため、産地不明の場合がある。12年2月、市内の学校法人「アジア学院」がセミナーハウスの1室に設けた「ベクレルセンター」で、測定を始めた。

 1食分の全メニューを一つの袋に入れて届け、測ってもらう。時折、1キログラムあたり3ベクレル超を検出することもあるが、4ベクレル以上が出たことはない。福本園長は、10ベクレル以上が出た時は食材を見直す方針だ。

 国が事故後に急きょ設けた販売規制の基準は、飲料水・牛乳が200ベクレル、野菜類・穀類・肉などが500ベクレル。翌年、飲料水を10ベクレル、牛乳を50ベクレル、一般食品を100ベクレルとしたが、園の基準はさらに厳しい。「園児にとって『この数値なら安全』というのはない」。今後も測り続ける。「ゼロを確認する意味は大きい。事故はまだ終わっていない」

 園は、原発ADRの手続きで東電に12~15年度分の測定費計117万4500円を請求した。給食のほか、園の畑の野菜や果樹についての費用も含めた。以前は園児たちが拾うのを楽しみにしていた園庭のクリの実は、15年秋にようやく10ベクレルを切ったという。

 「測定は安心できる保育環境の提供に必要不可欠。事故がなければその必要性は一切なかった」と代理人の粟谷しのぶ弁護士は訴えた。16年度以降の分は、「事故との因果関係がない」と拒まれる可能性が高いと考え、交渉難航を見越し請求しなかった。

 15年度分は事故との関係が認められなかったが、12年度分は事故に負う部分が10割、13年度分は8割、14年度分は5割として、計55万円が認められた。

 粟谷弁護士は、15年に原発ADRに和解の仲介を求めた那須塩原、大田原、那須3市町の住民7310人の弁護団長も務めた。今回の和解について「子どもの安全な環境を確保するための費用が認められた意義は大きい。測定費は、農畜産家や食品製造業者の営業損害として認められる例が一般的。これを前例に、子どもの安全の視点で救済が進むことを期待する」と話す。

 園は約60年前に給食を始めた。それまでは弁当持参だったが、ご飯とキュウリだけの子がいた。家庭状況を思いやり、全員を給食に切り替えた。

 給食と環境教育をつなげる取り組みにも力を注いだ。ヤギや羊を飼い、堆肥(たいひ)を作り、それで園児は野菜を育てて収穫し、分かち合う喜びも体験し、給食で味わった。そんな特色ある教育が事故で一変した。

 一切の外遊びを禁じた。

 2カ月後。園庭の空間線量は地上50センチで毎時0・68マイクロシーベルト、地上10センチで毎時0・8マイクロシーベルト。大人でも出入りに制限がかかる放射線管理区域の毎時0・6マイクロシーベルトを上回った。

 ただちに市に除染を求めたが、待たねばならず、園独自で園庭3千平方メートルの除染作業に着手。表土を除き、さらに放射性物質除去の効果があると聞いた土壌改良材を敷き、汚染されていない山砂を敷いた。砂場も、園児が口に砂を入れることがあるので入念に。今回の和解で、園が自費で賄った土壌改良材費用35万1093円が認められた。

 事故から3カ月後。「これから外で遊びます」と放送すると、「わー!」という大歓声が事務室まで響いてきたことが、園ホームページ「安全管理」のページに記録されている。

     ◇

 西那須野幼稚園が放射能測定を続けているアジア学院ベクレルセンター(ABC)は、12年1月にオープン。学院内だけでなく地域でも広く利用してもらうため測定費は実費のみ。現在は1検体1500円。これまで約7千件測ってきた。

 今年4月、記者も利用してみた。調べたのは県内14市町で出荷制限中の野生のコシアブラ。予約時に必要量を教わり、「土などが混ざらないよう水洗いして」と助言を受けた。市内の林で地主の了承を得て採集した。

 担当の西川峰城さんに託した。東芝メディカルシステムズ(現キヤノンメディカルシステムズ)OBで、放射能測定は専門分野。震災後に地域の有志が集まった「那須野が原の放射能汚染を考える住民の会」の代表で、会員らと手弁当でABCの運営に携わっている。

 測定器はドイツ製で、震災後にキリスト教団体の支援を受け導入した。

 毎日のように利用する西那須野幼稚園には、負担をおもんぱかり、給食1食分を千円で引き受ける。

 記者が持参したコシアブラからはセシウム137が1キログラムあたり350ベクレル検出された。印刷した結果の表をもらい、西川さんから説明を受けた。「10グラム食べるなら3・5ベクレルを摂取することになる。その評価は個人で考えるしかない。ただ、子どもには食べさせないほうがいいでしょう」

 ABCは要予約。営業は火・水・木の午前10時~正午。電話0287・48・7045。(小野智美)

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