文化人との交流描く新著 三重県文化大賞の川口祐二さん

臼井昭仁
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 30年以上にわたって全国各地の漁村を巡り、暮らしぶりや歴史を聞き書き集としてまとめてきた作家川口祐二さん(89)=三重県南伊勢町=が県文化賞の大賞に選ばれた。記念出版する31作目は「体力的に最後」の著作といい、亡くなった文化人らとの交流をエッセーの形で紹介している。

 川口さんは1959年の伊勢湾台風の翌年、東京から地元へ戻り、旧南勢町役場に勤めた。88年に刊行された岩波新書別冊「私の昭和史」に掲載された論文「渚(なぎさ)の五十五年」が評価され、56歳で早期退職。以来、北海道から沖縄まで漁村を巡り、海女や漁師ら800人以上に取材した。

 大学の講師も務め、環境保全に力を尽くした人を表彰する「田尻賞」なども受けている。

 30作目となるエッセーを2020年に出版。その後は、過去に交流があった文化人らとの思い出を200字詰め原稿用紙に5Bの鉛筆で刻んできた。ただ発表のあてはなかった。

 今年になって21回目となる県文化賞(5月29日に表彰式)で文化大賞を受けることが内定した。県が01年度に創設し、今回は、文化功労賞などの各部門を含め計13人・団体が選ばれた。川口さんの受賞理由は「極めて優れた功績で、本県の文化の向上に大きく貢献した」だった。

 川口さんはこれを機に、未発表のエッセーをドメス出版(東京)から「村翁閑話(そんおうかんわ)」(四六判160ページ、1650円)という表題で6月に出版することにした。

 取り上げているのは、松阪市出身で農民詩人の錦(にしき)米次郎、プロレタリア文学作家の佐多稲子、詩人で伝記作家の足立巻一(けんいち)、愛知県渥美半島出身で作家の杉浦明平(みんぺい)ら。

 知り合ったいきさつとその人となり、やり取りした手紙、はがきを紹介している。そのほか親交があった市民も含め約30人が登場している。いずれも故人だ。

 「色々な人から教わったおかげで執筆を続けられた。その感謝の気持ちを記録しておきたいと考えた」

 今は目の病気もあって文字が読みづらく、執筆活動を中断している川口さん。「最後のつもりで書いたが、この時代に紙の本を出すことができてうれしい。振り返れば30年以上、美しい時間を続けることができたとも思っている」

 県文化賞の受賞を記念した講演会が南伊勢町の町民文化会館で6月11日に開かれる。午後1時半からで無料。(臼井昭仁)