廃校プール産高級魚 うまみしっかり、骨まで柔らか 愛媛で陸上養殖

長田豊
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 愛媛県新居浜市の元小学校のプールで、淡水魚の養殖が行われている。昨年11月に始まった、情報通信技術(ICT)を活用して効率的な陸上養殖の技術確立を目指すという「スマート養殖」実験だ。以前から気になっていた養殖の現場を訪ねてみた。

 養殖プールがあるのは、新居浜市の臨海工業地帯にある旧・市立若宮小学校。1952年に開校し、ピーク時の59年には児童数1100人を超した。だが、高度経済成長の終わりとともに児童数が激減し、2018年3月の廃校時の全校児童はわずか37人だった。

 市は、中心市街地に近い立地を生かし、生涯学習などの拠点として校舎を改修。昨年、多目的複合施設「ワクリエ新居浜」としてオープンさせた。

「水族館」は断念、それならば…

 指定管理者となったケーブルテレビ会社「ハートネットワーク」の伊藤直人社長(55)によると、当初、25メートルプールの活用方法は未定だった。廃校のプールでウミガメを泳がせる「むろと海の学校」(高知県室戸市)も視察したが、校舎を展示スペースとして使う水族館のような施設にはできないため断念。最終的に魚の養殖を選んだという。

 廃校を利用した養殖は、チョウザメ(香川県東かがわ市)やトラフグ(宮崎県えびの市)など各地で行われているが、差異化をはかるため、ICTを生かした「スマート養殖」の実証実験を始めることにした。

 実験アドバイザーとして現場を任されたのは、新居浜市内で養殖関連のコンサルタント業などを営む白石悠さん(27)。東海大学海洋学部(静岡市)で、子供の頃から好きだった淡水魚の生態や養殖について学んだ後、生まれ育った新居浜に帰郷していた。シーカヤックのインストラクターとしても働きながら、養殖関連の事業を立ち上げるなどの経験が買われた。

 白石さんが勧めたのがホンモロコの養殖だ。琵琶湖固有種で体長10~15センチほどの小ぶりな淡水魚。コイ科で最もおいしいとも言われ、京都などで好んで食べられる。だが近年は漁獲量が激減し、高級食材としても知られるようになった。水質や水温の変化に強く、最初の実験魚としても最適だった。

 昨年11月に体長5~8センチの幼魚約2千匹をプールに入れ、水温や水中の酸素量、pH値などを計る測定器を設置。一定時間おきに水中の写真を撮影するカメラも沈め、日々、データを集めながら養殖を続けた。

 約半年後の今年5月、体長10~12センチほどに成長。卵を抱えた「子持ち」も多く、孵化(ふか)した稚魚もとれるなど、実験の第一段階は順調だった。一方で、1日2~3回のエサやりなど、まだまだ省力化の余地が大きいことも分かった。

将来はスマホで育てるシステムも

 白石さんは「将来的にはスマホで、エサやりも遠隔監視もできる安価で簡便なシステムを確立したい。ほかの魚でも実験を続け、最適な養殖を探りたい」。伊藤社長も「ホンモロコを釣り堀に入れたいとか、ほかの魚の養殖もといった問い合わせが届いている。いずれ、廃校プールで生まれたシステムを全国や海外に販売できれば」と、新たなビジネスの可能性を感じている。

 取材後、廃校プールで育ったホンモロコ3匹をいただき、持ち帰った。1日ほど泳がせて泥を吐かせ、一番大きい子持ちは塩焼き、残る2匹は天ぷらにして食べてみた。子持ちは京都の料亭などで珍重されるだけあって、淡泊な中にもしっかりした味わい。天ぷらも骨まで柔らかく、うまみもしっかり感じられた。

 廃校プール育ちの魚たちが、日常的に食卓に並ぶ日も遠くないのかもしれない。(長田豊)

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 ワクリエ新居浜 旧・新居浜市立若宮小学校の校舎を改修し、生涯学習やビジネスなどの複合拠点施設として2021年6月にオープン。子どもたちが木製のおもちゃで遊べるスペースや防音完備の音楽スタジオ、レンタルオフィス、食堂などがある。