無人の町で「描かなきゃ」と思った 壁画がいつか壊されるとしても

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井手さゆり
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 福島県双葉町で進められていた壁画アートの制作プロジェクト。この春、8個目の壁画が完成し、制作活動に一区切りがついた。約1年半をかけて描かれた壁画はどれも色彩豊かで、偶然見かけた人たちが思わず足を止めることも多い。しかしここは、東京電力福島第一原発の事故による全町避難が続く町。住む人がいない街に、なぜ壁画だったのか。

 東日本大震災の発生から11年と1日目となる3月12日午前6時半すぎ。JR双葉駅前の作業現場を訪れると、すでに制作メンバーたちが高所作業車を動かして作業を始めていた。テーマは「地元の人たちの笑顔」。原発事故当時のままの四つの建物の五つの壁に、3日間で25人の笑顔を描く計画で連日早朝から現場に入っているという。

 この「双葉アートディストリクト」プロジェクトは、2020年6月、避難先の東京で飲食店を経営する町出身の高崎丈(じょう)さん(40)と、東京の壁画制作会社「OVER ALLs(オーバーオールズ)」の赤沢岳人(たかと)社長(40)が偶然出会ったことが始まりだ。高崎さんの店に、赤沢さんが客として訪れたのだ。

 当時、高崎さんは「双葉もアートで再生できるんじゃないか」と考えていた。廃虚になったオランダ・アムステルダムの造船所が、アートによって人がにぎわう地域に生まれ変わった例を知ったからだ。

 一方のオーバーオールズは、米ロサンゼルスのアートディストリクト(芸術地区)の例などを知っていた。治安の悪い地域に壁画アートが増えることで治安が改善し、人が集まる地区になった。「いつか日本でも壁画で街を変えたい」と思っていた。

 両者が意気投合し、20年夏に描いた壁画が1作目の「HERE WE GO!!!(さあいこう!)」。高崎さんの左手が地面を指さし、「『ここ』からがスタートだ」という意気込みが伝わってくる。

「うってつけの場所だった」

 そしてオーバーオールズは、継続して壁画を描くことにした。「ものすごく悪い言葉を使うと、双葉はアートの力を証明するのにうってつけの場所だった」。赤沢さんはそう言った。

 20年春、町では住民の帰還…

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