言語超えたつながり、絵本に カメルーン留学生との交流つづる
【神奈川】カメルーンの留学生との交流を描いた絵本「ハルくんの虹」(遊行社)を、川崎市中原区の上斗米(かみとまい)正子さん(71)が出版した。家族ぐるみの交流は帰国後も続き、留学生は自身の長男に上斗米さんの夫の名前から「HARUSHI(ハルシ)」と名付けた。「言語や文化を超えたつながりを大切に」というメッセージを本に込めた。
水質分析を学ぶため来日したメンジョさん(41)と、上斗米さんが出会ったのは2011年5月。約40年前から多言語交流を続ける上斗米さんが、仲間と企画したホームステイのイベントの場だった。
メンジョさんは来日したばかりで日本語はほとんどわからなかった。それでも柔らかい表情でほほえみかけ、言語の違いなど意に介さなかった。夫の小出治史(はるし)さん(77)ともすぐに打ち解け、自宅に遊びに来るようになった。
観光地を案内したり、ごちそうを並べてパーティーを開いたりするような、お客さん扱いはしなかった。メンジョさんは帰省した子どものように、ゴロンと寝転んだり、河原でキャッチボールをしたり。日常生活の中にスッと入り込んでいた。
留学は博士号を取るまで5年間に及んだ。途中、メンジョさんは結婚。先にカメルーンに帰国した妻が14年に長男を出産した。その長男に「HARUSHI」と名付けたと上斗米さんは聞かされた。全くのサプライズで「こんなことが起こるんだ」と涙がこぼれた。
メンジョさんが帰国した翌年の17年、上斗米さん夫婦や仲間は「ハルくんに会いに行こう」と16人でカメルーンに渡り、3歳のハルシくんに初対面した。訪れたのは空港から車で1時間ほど走った郊外の街。道で人に会えば、誰からも声をかけられた。明るくめげない人々に触れて熱い思いがわき上がった。
カメルーンは250の民族と言語が共存する多民族国家。「ハルくんも現地語や英語、フランス語を織り交ぜて言葉を発していた。言語の違いは障壁になっていなかった。違うことが当たり前だった」
アフリカの人にも見てほしいと絵本には日本語のほか、英語、カメルーンの現地語、仏語が並ぶ。ハルシくんの視点から描き、日本に留学し、文化の違いに驚きながら日本人と交流を深める父親、自分に会うためにカメルーンにやってきた「日本のじぃじとばぁば」との交流、多民族、多言語の中、助け合って生活するカメルーンの生活などを紹介している。絵は神奈川県逗子市在住の画家、佐藤泰生さんにお願いした。
絵本の中で、ばぁば(上斗米さん)はハルシくんに「一緒に助けあって、生きるためにことばがあるんだね」と語りかける。上斗米さんは「夫の名前を付けたハルシくんがいなかったら、絵本は生まれなかったと思う。優しい思いが国内や世界の人々につながって未来に大きな虹が架かることを祈っています」。
2千部発行。2090円(税込み)。問い合わせは遊行社(042・593・3554)へ。(佐藤善一)
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