家族3人で勝ち取ったベルト 出産から1年未満の37歳、新王者に
出産から1年未満で世界タイトルマッチに挑んだ女子プロボクサーが、長年の夢だったベルトをつかんだ。
「誰もが無理だと思っていたと思います。ただ、私は勝つ自信があった。この試合を見て、何かを感じてもらえたらうれしい」
30日、東京・後楽園ホール。世界ボクシング機構(WBO)スーパーフライ級タイトルマッチで、挑戦者の小沢瑶生(たまお、37)が2―1で判定勝ちした。
京都・フュチュールジム所属の小沢は、26歳でプロデビュー。29歳の時に東洋太平洋王者に輝いたが、過去2度の世界挑戦は惜しくも王座に届かなかった。
33歳の誕生日にピアニストの岸本良平さんと結婚。35歳の時、悩んだ末に一線を退くことを決断した。子どもが欲しかったからだ。
最も惜しんだのは夫だった。区切りをつける前に「もう1試合やったら?」と提案した。
しかし、小沢は首を横に振った。
「それって、やめるための試合じゃないですか。リングはそんな場所じゃない。上を目指せる自分じゃないなら、やりたくなかった」
出産後に戻る。それも、世界をめざすつもりで帰ってくると決めていた。
昨年6月12日、第1子の長男・緯泉(いずみ)君が生まれた。
まさか、このタイミングで世界挑戦のチャンスが巡ってくるとは思っていなかった。オファーがあったのが昨年10月ごろ。出産から4カ月でほとんど運動はしておらず、まだ授乳もしていた。
「普通の試合なら、受けなかったです」
そう言った後、続けた。
「このタイミングで戻ると決めたのは、世界戦だったから。チャンスはいつ来るか分からない。それは、今までの経験で分かっていた。だから、つかもうと」
ゼロから体を鍛え直した。良平さんが仕事をセーブし、サポートに徹してくれた。実戦練習の相手を求めて大阪、兵庫のジムへ出稽古を繰り返した。夫と子も、いつも一緒だった。
この日は、ほぼ作戦通りの試合になった。
左ジャブを軸とした手数のボクシングで、圧力をかけてくる王者の吉田実代(34)の前進を止めた。中盤、吉田はプレッシャーを強め、右強打を狙ってきた。小沢はそれも織り込み済みで、先に打たせた後、ガードが空いたところを狙った。打ち合いでも引かなかった。
判定は割れたが、勝利は確信していた。
妻をサポートしてきた夫は長男を抱いて試合を見ていた。
良平さんは泣き笑いの表情だった。
「序盤の流れで、いけると思いました。本当に報われてよかった。この試合の後のことは、僕たち何も考えていなかったんで」
それにしても小沢のスタミナには驚かされた。
10ラウンド、フルに手と足を動かし、勝った後にリング上でインタビューを受けても、まったく息は切れていなかった。
準備期間はわずか半年。それでも、ここまでやれることを証明した。(伊藤雅哉)
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