思い出ことこと あの日を経て樋口直哉さんが紡ぎ直したスープの物語
記事の後半でレシピをご覧いただけます。
本好きで、高校時代に文芸コンクールで賞をとるほど書くことも好きだった作家・料理家の樋口直哉さん(41)。シェフとして切り盛りしていたレストランで、仕事を終えた夜に書き始めた小説が20代でのデビュー作となりました。
発表した小説の中でも、「スープの国のお姫様」は時間をかけて書き上げました。元料理人の青年が老婦人のお屋敷で雇われ、スープを作る物語です。もともと別のタイトルで文芸雑誌に連載していましたが、連載終了の年に東日本大震災が起きました。そこで、テーマを変えて書き直すことにしたのです。
連載時は「変わらない日常」がテーマでした。スープストックをとり、お屋敷で毎日スープを作る。その繰り返しが尊い、そんな気持ちでした。ところが、震災でそうした「日常」が崩壊するのを目の当たりにしました。単行本にするにあたり、テーマを「記憶」に変更。物語に登場する人たちが、スープを介して亡き人との思い出や家族と向き合う。そんな物語になりました。
「ポタージュ・ボンファム」は、物語の最初と最後に印象的に登場します。「ボンファム」は「女房、おばさん」といった意味で、フランス料理で「おふくろの味」を思い起こさせるような家庭料理につけられます。主人公にとって大切なポタージュスープです。
この作品以降、料理を題材にした小説を書くようになった樋口さんは、料理の成り立ちやレシピを題材に物語を発展させることも多いといいます。そして、小説と料理の共通点について、こう話します。
「誰かと一緒においしいものを食べたり、小説を読んで世界の見方が変わったり。小説もおいしいものも、どちらも人生を充実させ、豊かにしてくれるものなんです」
今回はジャガイモ、ニンジン、タマネギを使いますが、季節によってセロリやカリフラワー、カブでもおいしくできます。(構成・沼田千賀子)
ひぐち・なおや 1981年、東京生まれ。服部栄養専門学校卒。2005年に「さよなら アメリカ」で作家デビュー。「大人ドロップ」など著書多数。
ポタージュ・ボンファム
【主な材料・2~3人前】 ジャガイモ小1個(80g)、ニンジン1/4本(70g)、タマネギ中1個(200g)、バター20g、水・牛乳各200ml、生クリーム50ml、塩小さじ1/2、クルトン適量
①ジャガイモは皮をむき、厚さ5mmに切る。タマネギは繊維を断つように薄切りに、ニンジンも薄切りにする。
②鍋にバター、タマネギ、ニンジン、塩の半量を入れ、ふたをして中火にかける。湯気が出てきたら弱火にし、5分加熱する。しんなりしたら水、牛乳、ジャガイモを加え中火にする。
③沸いてきたら弱火にし、ふたをして7~8分加熱する。火を止め、余熱で5分火を通す。ジャガイモが軟らかくなったらミキサーにかける。
④鍋に戻して残りの塩と生クリームを加えて混ぜ、温める。器に盛りつけ、クルトンを添える。
2人前として1人前約340kcal、塩分1.9g(栄養計算:女子栄養大学栄養クリニック)
一言メモ
最初に鍋で野菜を加熱するときに塩を半量入れることで、早くしんなりさせます。牛乳よりも乳脂肪分の多い生クリームを少し加え、なめらかな舌触りに仕上げます。
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