第83回ロシア兵は夫だけ連れ去った 残された妻「お願いだから無事でいて」

ウクライナ情勢

キーウ=高野裕介
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 ロシア軍が侵攻したウクライナで、多くの人たちの行方がわからなくなっている。中には強制的にロシアに連れ去られた人たちもいる。最愛の人の帰りを待つ家族は、胸が張り裂ける思いで苦しみ続けている。

 首都キーウ(キエフ)の中心部から北に約40キロ。ロシア軍の進軍ルートになった村に住む女性(47)は、夫(48)の行方がわからぬままだ。

 3月17日早朝、5人ほどのロシア兵が2台の車でやって来た。自宅に置いてあった大型金庫から、夫が趣味で使うライフル銃を押収。女性には、「そのまま普段の生活を続けてください」と言い、家を荒らしたり、暴力を振るったりすることはなかった。

 ただ、理由を言わずに夫を連れていった。「心配いらない。すぐに連れて帰るから」。ロシア兵の一人はそう告げた。

 でも、夫は帰ってこなかった。翌日から、自宅近くにあるロシア軍の検問所に行き、夫の消息を尋ねた。指揮官らしきロシア兵は、「すぐに解放される」と言うだけだった。

 もしかしたら、殺されてしまったのか――。そんな不安も頭をよぎり、遺体安置所、森林、ロシア兵が拠点にしていた街などで捜し回った。そんなとき、ロシア軍に連れ去られて居場所を転々としている可能性があると知らされた。

 29年寄り添った夫。怒りっぽくて、でもすぐにそのことを忘れる。子どもたちが独立し、ようやく2人で旅行などをする時間が取れるようになっていた。「彼といると、壁に守られているような安心感があった。お願いだから、無事でいて欲しい」

 ロシア軍が一時占拠した地域では、行方不明になった人たちの報告が後を絶たない。ウクライナ議会の人権オンブズマンは、これまで約1万8千件の行方不明の届け出があったとしている。一方、ロシア側が強制的に連れ去った住民は5月21日の時点で約138万人にのぼり、うち約23万人が子どもだという。(キーウ=高野裕介)

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