差別解消条例成立 人権問題専門家に聞く 三重

黄澈
[PR]

 「差別を解消し、人権が尊重される三重をつくる条例」がこのほど、県議会で成立した。条例は人権問題に関する相談に応じることを県の責務とし、当事者間の紛争に介入するための体制も定めた。一方、各地で規制条例制定の動きがあるヘイトスピーチが、原則的に救済対象から外れるなど、課題も指摘されている。人権問題の調査や研修事業などに取り組む「反差別・人権研究所みえ」(津市)の松村元樹事務局長に聴いた。

 ――条例はあらゆる差別の解消をうたっています。どのような効果を期待していますか。

 被差別部落出身であることを理由に、企業内で差別的言動を受けるなどの事例が、県内にもあります。被害者は「上司に訴えたら、職場の人間関係が悪くなるのでは」などと悩みながら、自力で解決策を探る状況に置かれがちです。

 差別事例に介入する責務を県に課した条例の成立で、被害者の負担の相当部分が、県に肩代わりされます。被害者が申し立てれば、知事が相手に反省を促す「説示」などや、行政指導に当たる「勧告」を出す場合もあります。罰則はありませんが、企業に関わる人にとっては無視できず、効果が期待できます。

 ――説示や勧告などを行う場合、知事がその概要を公表するとあります。

 知事は必要に応じて、学識経験者による「県差別解消調整委員会」の意見を聴いたうえで、説示などを行います。専門性を持った委員が差別事案と認定した事例が蓄積され、条例が規定する「実態調査」も含めて、県内の人権状況が適切に把握できるようになることを期待しています。

 行政が公的に差別を認定し、実態を公表しないと、「差別などないのに、利権のために差別を問題にしている勢力がある」などのデマがはびこり、結果としてマイノリティーへの差別が増幅しかねません。事例の積み重ねは、こうした事態の抑止につながります。

 ――一方、川崎市などが規制条例を定めているヘイトスピーチは、原則的に紛争解決措置の対象から外れました。「○○人を日本からたたき出せ」などの言動は、不特定多数の集団に向けられたもので、「当事者間の紛争」には当たらないという理由です。

 県内でもヘイトスピーチを伴う街宣が複数確認され、ネットでも多数確認できます。規制が必要とされる事実はあると考えており、県や県議会は今後も実効性あるヘイト対策について、議論を重ねるべきです。

 2016年に制定されたヘイトスピーチ対策法は罰則のない理念法で、地域内に問題を抱える多くの自治体が、苦労して個別に規制条例を作っています。

 昨年8月には、在日コリアンが多く住む京都府宇治市のウトロ地区で放火事件があり、「ヘイトクライム」とも指摘されました。政府は表現の自由の保障などを理由に、ヘイトスピーチを犯罪として処罰することを求めた人種差別撤廃条約の一部を留保していますが、再考すべき時期ではないでしょうか。

 ――今後、この条例をどう使っていくべきでしょうか。

 差別で苦しんでいる人は、積極的に条例を使ってほしい。解決できた事例が積み重なれば、同じ立場の人が「自分も相談してみよう」と考え、大きな力になります。逆に、解決できなかった事例を積み重ねれば、さらなる改正の必要性が見えてきます。

 私が属する研究所では、近年、多文化共生や障害者支援などに関わる団体の人に役員になってもらい、「マイノリティーの連帯」を進めています。成立した条例の下で展開されるべき施策についても、この枠組みで提言し、条例を育てていきたいと思います。(黄澈)

     ◇

 松村元樹 1981年2月生まれ、41歳。三重県伊賀市出身。旧伊賀町職員を経て、2005年に津市の反差別・人権研究所みえ研究員に就任。17年から現職。部落解放・人権研究所(大阪市)理事、三重県人権教育研究協議会理事なども務める。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

今すぐ登録(春トクキャンペーン中)ログインする

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

春トク_2カ月間無料