6月21日からオーストリアのウィーンで開かれる核兵器禁止条約第1回締約国会議に向け、専門家や被爆者らが2日、核兵器の使用や実験などによる被害者の援助について、国際社会が取り組むべき課題をまとめた提言を発表した。
提言は、NPO「ANT―Hiroshima」(広島市)理事長で被爆2世の渡部朋子さん、長崎の被爆者で日本赤十字社長崎原爆病院名誉院長の朝長万左男さん、世界の核被害に詳しい専門家ら13人が作成した。広島・長崎両市長や広島県知事、被爆者ら226人(5月31日現在)の賛同を得たという。
提言では、核被害に関する課題について、将来世代や女性への影響、健康被害、環境汚染などに分類。条約の締約国に対して、核被害の当事者が議論に参加することや、被害の実態研究を進める常設機関の設置、核使用と核実験をした国に影響に関する情報開示を求めることなど10項目の「勧告」を盛り込んだ。
国際NGO・核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の国際運営委員、川崎哲さんは会見で、「唯一の戦争被爆国である日本は、最も核被害の経験や知見があり、被害者の声をふまえた提言をする責任がある。提言が(被害者援助の)具体的なステップにつながることを期待する」と話した。日本政府が会議へのオブザーバー参加に否定的なことに触れ、「本来なら日本政府が果たすべき役割だ」とも述べた。
共同提案した広島大の川野徳幸・平和センター長は「体、心、暮らしなど広範囲にわたる核被害を包括する提言ができた。ウクライナ侵攻が続く中、核兵器は絶対的な悪だという視点を持ってほしい」と話した。
提言はNGO・ピースボートのホームページ(https://peaceboat.org/42190.html)で公開されている。(福冨旅史)
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今回の提言は、広島・長崎の原爆被爆者や、米国、マーシャル諸島、カザフスタンなど世界各国の核実験被害者らの「核被害者目線」に立つ研究者らが、「そもそも核被害者とは誰なのか」という根本的議論を促すものだ。
核兵器禁止条約の第6条は核被害者支援と環境修復、第7条は国際協力をうたう。提言はこれらを「条約の中心的な柱の一つ」と位置づけ、広島・長崎(原爆)、ビキニ(核実験)、福島(原発事故)といった日本が経験した核被害に共通する放射線の人的・環境的影響に着目した。
また、提言は「線量数値でもって、一律に定義できるほど核被害は単純なものではない」と明記。条約前文にある「電離放射線による女性や少女への不均衡な影響」との表現からさらに踏み込んだ。
提言のなかでは、長い間健康に影響はないとされている100ミリシーベルト以下の被ばくでも人体に影響があることが、100万人以上の小児のCT検査(20~30ミリシーベルト)の研究で確定しつつあることを紹介している。こうした「低線量」被ばくのリスクや「内部(体内)被ばく」についても考慮するよう求めている。
昨年7月の広島高裁の判決確定により、原爆の放射性降下物を含む「黒い雨」を浴びたと訴えた84人が新たに被爆者と認定され、1万人以上の救済の可能性が出てきたが、長崎では救済への動きはない。
締約国会議に参加する朝長万左男さんは「ある程度の(被ばく)線量がないと被爆者手帳をもらえないのが現実。(放射能汚染)環境にいただけでも認められるかどうか。どこから核被害者と言えばいいのか。ウィーンの会議では、まさにそういうところからスタートする議論が中心になっていくのではないか」と話す。(田井中雅人)
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