「バコッ」
何かが、ずれる音がした。
2020年9月、日本選手権女子7種競技。
ヘンプヒル恵(26)=アトレ=は、6種目めのやり投げで1投目を投げようとしていた。
助走をスタートし、投げる直前だった。
突然、右ひざから崩れ落ちた。
その場にうずくまり、動くことができない。
右ひざの前十字靱帯(じんたい)断裂だった。
「もう陸上はやめよう。全部終わった」
すぐにそう思った。
その3年前にも、同じけがで左ひざを手術していたからだ。
「戻らない以前の感覚をずっと追い続けて、3年かけてやっと立て直したところだった。もう1回、同じことはできない」
前回手術をしたのは中大3年生のとき。
日本選手権で3連覇し、日本選手初の6000点(自己ベストは5907点)を期待される存在だった。
その矢先にけがをし、苦しいリハビリが続いた。
あの日々をまた送るぐらいな…
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