乳がんの抗がん剤でまさかの心不全 「私、死ぬのかな」最後の選択肢
「なんで今なの……」
2018年5月。左胸に乳がんが見つかったとき、山梨県北杜市に住む村本彩さん(47)はそう思った。
数カ月前、市内にこだわりの一軒家を建てることが決まっていた。
両親が住んでいた八ケ岳のふもとの高原地に移住したのは、09年のことだった。
5年ほど観光関係の会社で働き、同僚だった真洋(まさひろ)さん(43)と16年に結婚した。
一軒家の構想のベースにあったのは、仕事で出会ったログハウス。
映画撮影のために森の中につくられ、その後は集客施設になっていた。村本さんはこのログハウスの管理や接客などを任された。
薄緑色の玄関ドア、白い窓枠、傾斜のついた屋根……。
新しい住まいは、あの思い出のログハウスに近づけよう。愛犬と愛猫、そして夫婦の新しい生活がもうすぐ始まる――。その矢先の乳がんの告知だった。
10代のころ、血液がんの悪性リンパ腫と診断された。
抗がん剤で治療し、再発はなかった。あれから25年以上。「またか」という思いもあった。
はじまった治療 数カ月後に異変
乳がんは「ステージ2」と伝えられ、がんの切除手術を受けることになった。
だが、手術前の検査で、乳房に近い、わきの下のリンパ節にもがん細胞が侵入していることがわかった。
手術であわせて切除。再発を防ぐため、抗がん剤治療をすることになった。
長野県の隣町の病院に車で30分ほどかけて通院。3週間に1回、抗がん剤を点滴した。
脱毛や強いだるさ、味覚障害などの副作用で苦しい思いをした。
異変を感じたのは、抗がん剤治療を始めて数カ月がたったころだった。
脈が速く、散歩中に息切れを感じる。ただ、治療が終われば治まるのではないか、と思った。
年が明けて迎えた19年の正月は、両親や夫、兄たちと笑顔で写真に納まった。
だが、すぐに事態は急変した。
頰がヒリヒリするのが気になって受診すると、医師から緊急入院を告げられた。
原因は抗がん剤の副作用
血液検査の結果が、心臓の異常を示し、心臓が血液を送りだす機能が大きく低下していることが判明した。
原因として指摘されたのが…