【そもそも解説】アジア安保会議ってなに? シャングリラ対話とも

【そもそも解説】

シンガポール=西村宏治
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 「シャングリラ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。

 文学に詳しい人なら、英国の作家ジェームズ・ヒルトンが1933年に出した長編小説「失われた地平線」に登場する、ヒマラヤの奥地にあるとされる理想郷を思い出すかもしれない。

 旅行好きの人なら、思いつくのは71年に開業したシンガポールの名門ホテル「シャングリラホテル・シンガポール」だろう。この小説に登場する理想郷にちなんで命名された。

 でも外交や安全保障の専門家なら、すぐに思い浮かべるのは「シャングリラ・ダイアローグ(シャングリラ対話)」のことではないだろうか。アジア・太平洋地域を中心に各国の国防、安全保障の担当閣僚らが顔をそろえる「アジア安全保障会議」の別名だ。シャングリラホテル・シンガポールが会場なので、そう呼ばれている。

 この会議は2002年から年1回のペースで開かれていて、今年が19回目(20年、21年はコロナ禍のため中止)。日本を含めたアジア・太平洋地域の安全保障を考えるうえでは欠かせない、世界中の専門家が注目する一大イベントだ。

 今年の日程は6月10~12日。初日の基調講演は岸田文雄首相が務める。米国のロイド・オースティン国防長官や、中国の魏鳳和・国務委員兼国防相の参加も発表された。30を超える国の国防を担う幹部が顔をそろえる予定で、政府の代表が数多く集まるが、開いているのは民間の組織だ。

 主催するのは、1958年に英国で設立された安全保障問題などを研究するシンクタンク、英国際戦略研究所(IISS)。朝日新聞社なども後援している。

 政府間の公式な会議では自由な議論が難しいケースもあるため、外交・安保の専門家やビジネス界のリーダーなども交えて率直な意見をぶつけあう場を民間が設け、地域の信頼関係を築くことに役立ててもらおうという狙いがある。

 会議の始まりとなる基調講演は、アジア・太平洋地域の首脳が務めるのが慣例となっている。これまでにシンガポール、豪州、日本、韓国、マレーシアインドネシアベトナム、タイ、インドなどの首脳が講演。日本の首相が基調講演を任されるのは、14年の安倍晋三・元首相以来、8年ぶりとなる。

 会議には大臣だけではなく、現役の将校や、軍の幹部なども集まる。19年の会議では、自衛隊「制服組」トップの山崎幸二・統合幕僚長も登壇。国際協力のあり方などについて演説したほか、ロシアや中国の参加者らと意見を交わした。

 会議は、各国の国防相らが個別の会談を設ける貴重な機会にもなっている。長年の参加者のひとりは「場合によっては、会議の中身そのものよりも、いろんな人に会えることの方に意味があるかもしれない」と話す。

 今年は会議に合わせ、オースティン米国防長官、中国の魏国防相の会談が調整され、日米韓の防衛相会談も実施される方向だ。こうした大臣クラスの会談だけでなく、高級官僚や軍人たちの交流の場でもある。約2日半の会期中、シャングリラホテルのあちこちで立ち話をする参加者らの姿が見られる。

 今年は、世界の安全保障をめぐる環境が大きく変わった年でもある。核兵器保有国でもあるロシアが2月にウクライナに侵攻し、いまも戦闘が続く。欧米各国はロシアを非難し、ウクライナに武器を送るなど支援を強めてきた。さらに5月には、軍事的に中立な立場を貫いてきた北欧のフィンランドスウェーデンが、欧州の集団的な防衛を担う北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請した。

 アジア・太平洋地域でも、環境は変わりつつある。中国が南シナ海南太平洋での影響力を強めるなか、豪州は昨年、米国や英国と「AUKUS(オーカス)」という新たな協力の枠組みを立ち上げた。米英の助けを借りて、長距離の潜行が可能な原子力潜水艦を導入する考えで、これも地域における長期的な軍事バランスに影響しそうだ。

 こうした状況の中で、米国や中国の代表がどんな言葉を発し、どのように対話しようとするのか。日本の岸田首相が現状をどう分析し、どんなメッセージを世界に向けて送るのかに、関係者の注目が集まっている。(シンガポール=西村宏治

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