シン・ウルトラマンで考える安全保障 メフィラスは「米国」なのか

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太田啓之
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 興行収入が30億円を突破した「シン・ウルトラマン」。ウルトラマンと人間との「友情」をテーマとした本作ですが、作品の背景にある世界観は重厚で、情報量も膨大です。それらを分かりやすく整理しつつ、作中のさまざまな「謎」に迫りました。物語の鍵を握る「ベーターシステム」は、日本の、地球の、メタバースの安全保障システムをどう変えるのか。狡知(こうち)にたけた外星人・メフィラスは何を象徴しているのか。庵野秀明さん自身が明言する「続編」はいったいどんな内容になるのか。目からうろこが落ち続ける深読みです!

(この記事は映画「シン・ウルトラマン」の内容に触れています)

 「シン・ウルトラマン」を見て、「シン・ゴジラ」(2016年)よりもファンタジー色が強く、ポジティブな作品との印象を持った人は多いだろう。私自身、劇場で子どもたちが食い入るようにウルトラマンの活躍を見つめたり、「おもしろかった!」と話したりしているのを目の当たりにし、「やはり、ウルトラマンはこうでなくては」とうれしくなった。

 一方で、「シン・ウルトラマン」はオリジナル版「ウルトラマン」がそうであったように、大人を考え込ませるメッセージに満ちた物語でもある。中でも重要なのは「シン・ゴジラ」に続いて扱われる「地球(日本)の安全保障」を巡る描写だ。

 映画が始まってまもなく出現する禍威獣(かいじゅう)「ネロンガ」への対応を巡る禍特対(かとくたい)メンバーらのやりとりが、すでに「子どもにはよく分からないが、大人には伝わる」不穏でざらついた雰囲気に満ちている。

日本政府が核兵器使用に言及

 米国を含む国際社会は、禍威獣を攻撃するための武器を提供するだけで、実際の対応は日本政府任せ。現実世界におけるロシアのウクライナ侵攻で、各国がウクライナに武器は供与するものの、派兵は行わない状況をほうふつとさせる。

 そして日本政府は、禍威獣に対する核兵器の使用さえほのめかす。これも「ロシアが、ウクライナでの限定的な核兵器の使用に踏み切るのではないか」という現実の懸念と重なる。

 劇場で販売中の「シン・ウルトラマン デザインワークス」には、企画・脚本・総監修を務めた庵野秀明さんによる18年時点の企画案が掲載されており、「実感のない侵略に対して漠然とした不安を抱える、現在の日本人の世相を描く」との言葉がある。

 当時、中国は南シナ海の軍事拠点化をすすめ、ロシアもすでにウクライナ南部を併合していた。「米国を頂点とする安全保障システムが、中国の台頭やロシアとの対立によって流動化し、多元化しつつある」という現実の状況を物語に反映させようとしたことが、ウクライナを巡る状況とのシンクロにもつながったのではないか。

ウルトラマンは「生物兵器」

 そして、「シン・ウルトラマン」で顕著なのが、禍威獣、巨大化する外星人、そしてウルトラマンをも「生物兵器」として捉える、一貫した視点だ。

 日本に相次いで登場した禍威獣は、かつて星間戦争の戦場だったらしい地球に置き去りにされた生物兵器が、環境破壊などの影響で目覚めたものだった。

 ウルトラマンは、体内に核反応炉を持つ「熱核戦略生物」である禍威獣ガボラとの戦いで、自らの体内に放射線を取り込んで周囲の環境汚染を防ぎ、しかもガボラを鉄拳一発で倒すパワーを示した。ウルトラマン自身が「核」をも超える有効な兵器であることを実証したのだ。

 ウルトラマンやメフィラスら外星人が巨大化して戦えるのは「ベーターシステム」と呼ばれる超技術によるものだった。しかも、この技術を使えば地球人をも巨大化させ、強力な生物兵器として利用できることが明らかになる。

 外星人・メフィラスは日本政府に対して、自衛と抑止のため、ベーターシステムに基づく人間巨大化装置を供与する代わりに、「上位概念として私を存在させてほしい」と要求する。禍特対の一員も「ベーターシステムの軍事利用の方が核武装よりも効率がいい。すぐに世界中がそうなる」と見通す。劇中、ウルトラマンの活躍と同時進行するのは「核兵器からベーターシステムへ」という「安全保障のゲームチェンジ」なのだ。

 そして、「シン・ウルトラマン」の作中で、私の心をもっともざわつかせたのは、人間の姿をしたメフィラスが、神永新二=ウルトラマンに告げた「人類支配」の方針だった。

記事の後半では、メフィラスの言葉か暗示する、私たちの米国に対する思い、ウルトラマンが指し示す自立への道、そして続編のテーマと内容について考えます。

 「人類に『(外星人には)暴力ではかなわない』という無力感と、ベーターシステムの開示による『知恵でもかなわない』という無気力と、強者への依存を身にしみて覚えてほしかった」「外星人には無条件に従うしかない、という私にとって理想的な概念を人類に植え付ける」

 この言葉は私にはこう響いた。

 「日本人に『米国には暴力で…

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