「機能不全」のWTO、問われる存在意義 閣僚会合、12日に開幕

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若井琢水、ワシントン=榊原謙、ロンドン=和気真也
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 164カ国・地域が加盟する世界貿易機関(WTO)の閣僚会合が12~15日にジュネーブで開かれる。ロシアのウクライナ侵攻で深刻化する食糧危機への対応などを協議する。ただ、加盟国間の紛争を処理する機能は2年半にわたり失われたままで、新たな貿易ルールづくりも進まない。山積みの課題を打開する道筋を示せるかも焦点だ。

 事務局長の交代やコロナ禍による延期で、開催は4年半ぶりとなる。

 WTOが今回の議題の一つに掲げたのが、食糧危機への対応だ。世界の穀倉地帯と言われるウクライナからの小麦の輸出が妨げられ、依存度が高い中東やアフリカ諸国に危機的な状況をもたらしている。供給不足を心配したインドが5月に輸出規制に踏み切るなどし、市場価格がさらに高騰。世界を取り巻くインフレの温床にもなっている。

 WTOは食糧の流通を促すため、食糧安全保障のための不必要な輸出規制をしないことなどを提案する。人道支援にあたる国連の世界食糧計画(WFP)が調達する食糧は、規制の対象外とすることなども話し合う見通しだ。

 昨年の就任後、初めて閣僚会合に臨むオコンジョイウェアラ事務局長は5月にあった世界経済フォーラム年次総会ダボス会議)で、食糧危機に触れて「世界の連帯が必要な課題解決のために、多国籍機関のWTOはある」と話した。

背景には「機能不全」への焦り

 注力する背景には、組織の「機能不全」が指摘されるなかで、成果を残したいという焦りもみえる。

 冷戦終結後の1995年に発足したWTOは貿易の自由化の促進や紛争解決を担うためにつくられた。ただ、意思決定は加盟国の全会一致が原則。先進国と途上国などの間で意見が激しく対立することが繰り返され、多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)は挫折。デジタルや環境分野のルールづくりは遅れている。

 機能不全の象徴が、裁判に似た紛争解決制度だ。「最高裁」に相当する上級委員会が停止してしまっている。WTOが担う最も重要な機能の一つだが、上級委の裁定に不満を募らせた米国が裁判官に当たる委員の選任を拒否し、2019年末から機能していない。

 閣僚会合では、上級委の機能復活を含む組織改革も主要な議題だ。機能不全のままだと、紛争が未解決の状態が続くことになる。現在は20件以上の訴えが上級委で棚上げされ、日本が当事者のケースもある。経済産業省幹部は「(上級委は)貿易量の多い日本にとって重要な制度。今回進展がなければ永久に立て直せなくなる恐れがある」と危機感を強める。

 だが、米国は上級委復活に慎重な姿勢を崩していない。会合に出席する米通商代表部のタイ代表は6日の対談イベントで、「WTOの再活性化に向け、紛争解決(の問題)に取り組むよう私のチームに要請している」と話す一方、上級委の復活については「WTO改革の極めて限定的な手法だ」と冷ややかだ。

 閣僚会合では、このほか、南アフリカやインドが提案して議論となった新型コロナウイルスのワクチン普及を早めるための特許開放や、20年以上交渉が続く漁業補助金のルールなどが議題となる。いずれのテーマも、加盟国間で意見の隔たりがあり、合意できるかは不透明だ。

■対立深まる国際社会 「成果…

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    服部倫卓
    (北海道大学教授=ロシア・東欧)
    2022年6月12日13時56分 投稿
    【視点】

    多角的自由貿易体制を主導すべき米国が、自らその秩序を破壊しているのは、由々しい事態である。そうした事態が進んだのはトランプ政権下だったが、バイデン政権も前政権の政策を基本的に踏襲している形である。 一方、従来ロシアは別にWTOの秩序を乱し