分断強まる「ウクライナ後」の世界 過渡期の国際秩序と日本の役割

有料会員記事ウクライナ情勢

聞き手・池田伸壹
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竹内行夫さん|元外務事務次官

 ロシアによるウクライナ侵攻は、世界に何をもたらすのか。激動する世界の中で、これからの日本には何が求められるのか。政と官はどうあるべきなのか。外交官として、高度成長期からの歴史的瞬間に立ち会い、日本外交の事務方トップや最高裁判所の裁判官などを歴任した竹内行夫さんに聞いた。

たけうち・ゆきお

 1943年生まれ。首相秘書官外務省条約局長、北米局長、インドネシア大使、外務事務次官を歴任。2013年まで最高裁判事。著書「外交証言録 高度成長期からポスト冷戦期の外交・安全保障」。

「孤独な核大国」の時代錯誤

 ――外交と法の専門家として、ウクライナの状況をどう見ていますか。

 「ロシア軍のウクライナ侵攻の映像を見るにつけ、その無法ぶりと残酷さに怒りを覚えます。NATO(北大西洋条約機構)やウクライナがロシアに対し武力攻撃を計画したり、着手したりしていたわけではありません。プーチン大統領は現代の国際社会についての時代認識を誤り、ロシアのあるべき国家像についても旧体制を描いているようです。そして敵に包囲されているとの強迫観念、いわゆるシージ・メンタリティーとKGB的な陰謀史観に駆られて他国に侵攻し、戦争犯罪を重ねています」

 「ロシアに真の同盟国があるかどうか疑問です。核兵器保有国だということで大国としては遇される『孤独な核大国』が、時代錯誤の大国主義から抜け出せないゆえに巻き起こしているのが今回の侵攻です。人類にとって実に迷惑なことです」

 ――世界秩序はどう変わるのでしょう。

 「この侵略は歴史的に重大です。ロシアによる野蛮で愚かな行為は世界の歴史を100年以上も後戻りしたものです。人類は、20世紀に2度の世界大戦を経験し、その反省に基づき不戦条約などの国際法で戦争を違法化する努力を積み重ねてきました。そして、国連憲章は、その実効性に問題はありますが、武力の行使を原則として禁止する国際平和秩序の枠組みを提示したのです。ところが、こともあろうに国際平和に主要な責任を負うとされる安全保障理事会常任理事国であるロシアが、自ら憲章に違反する平和の破壊者となったのです。100年の文明の歩みを踏みにじる行為であり、ここに国際平和秩序全体を揺るがす歴史的重大性があります」

 ――人類にとって危機的な状況だということですか。

 「私は、悲観しているばかりではいけないと考えています。国際社会の大勢は、ロシアの行為を侵略行為として糾弾しているし、G7を中心とする自由民主主義国は、それぞれがリスクと犠牲をとりつつ、そろって制裁措置を打ち出しています。まず重要なことは、国際社会がロシアの行為を徹底的に弾劾(だんがい)し、ロシアにとって取り返しのつかない不利な帰結となることを歴史上の教訓として刻むことです。それが次の道義なき侵略を防ぐために必要です」

霞が関の人間はもっと生き生きしていましたよ」。高度成長期から外務省を見てきた竹内さんはそう話します。「政治主導」という言葉の裏で、古巣の外務省へ抱く懸念とは。記事後半でお伝えします。

 ――国連に対する失望も広が…

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    蟹江憲史
    (慶應義塾大学大学院教授)
    2022年6月16日23時47分 投稿
    【視点】

     竹内さんとは、あるところでしばらく「同僚」として活動させていただきました。その時の印象そのままに、今回のインタビューでも、日本と世界の利益を考えた上で毅然とした態度で目の前の事態に臨んできた姿勢が良くわかります。竹内さんのような官僚が少な