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第1回「帰る!」私はせん妄で暴れた 10万人に1人のがん、取れない腫瘍

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井上道夫
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 2020年12月、朝日新聞記者の私(54)は街を歩いている最中、腹部に鈍い痛みを感じた。背中も何となく痛い。

 「またか?」

 10年前と20年前に尿管に結石ができ、治療をしていた。

 今回も結石に違いないと思った。

 翌日、東京都内の自宅に近い総合病院の泌尿器科にかかった。

 腹部のエコー検査を受けていると、画像を見ていた医師が難しい顔つきになった。

 「腫瘍(しゅよう)があり、出血しています。専門の先生に診てもらいましょう」

 「腫瘍」という言葉に驚いた。

 加えて、医師は言った。

 「病院に今すぐ来られるご家族はいらっしゃいますか?」

 家族が呼ばれるとは、よほど悪い病気に違いないと思った。

 「まさか、がん?」

 病院に駆けつけた妻(48)と、消化器外科の医師の診断を聞いた。

 「消化管間質腫瘍(GIST、ジスト)の可能性が高いと思います」

 10万人に1人という希少がんだという。

 胃の壁にできることが多いが、私の場合、詳しい場所はまだ特定できないとのことだった。

 かなり出血しており、すぐに入院することが決まった。

 妻が入院の手続きをしている間に、上司に電話をした。手短にことの次第を報告し、しばらく休むことになりそうだと伝えた。

 もう歩くことは許されず、診察室から病室へは、車椅子に乗った。

 出血している場所を特定できないことや、手術に備えて絶食が必要で、栄養は点滴でとることになった。

 その日、午後9時に消灯になっても、寝付くことができなかった。

 「これからどうなるのか?」

 病室の天井を見上げながら不安は膨らむばかりだった。

 中学ではワンダーフォーゲル部、高校から大学まではサッカーをしていた。

 記者として駆け出しのころは事件を担当し、捜査関係者への朝駆け夜回りに明け暮れた。2、3日眠らなくても平気だった。その後、紛争が絶えない中東に、特派員で出た。

 健康には自信があった。それなのに……。

 子どもは2人とも小学生だ。「まだ死ぬわけにはいかない」

手術後、猛烈な尿意に襲われる

 入院から3日後、腫瘍を取り除く手術に臨んだ。生まれて初めての全身麻酔を伴う手術だった。

 麻酔の効きは思ったより早く、口にマスクを当てられると、あっという間に意識が遠のいた。

 「井上さん、終わりましたよ。気分はどうですか」

 手術後、医師の呼びかけが遠くから聞こえてきた。ストレッチャーに寝ていた。

 意識が戻り、まず感じたのは猛烈な尿意だった。トイレに行きたかった。

 だが、私の口から出てきた言…

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