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第2回合わせた手「子の成人まで命をつないで」 やっかいながんに恐怖心

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井上道夫
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 2020年12月、希少がんの消化管間質腫瘍(GIST、ジスト)の疑いがあると診断された私は、東京都内の大学病院で、集中治療室(ICU)に入っていた。

 このころの治療の主眼は、おなかの中の出血がひどくならないようにすることだった。

 数日前と同じように、手術後などに意識が混濁する「せん妄」の症状が出ていた。

 自分がどこにいるのか、曜日、時間が分からなくなった。

 おかしな夢もたびたび見た。

 何者かに拉致され、人体実験に使われる夢だ。

 真っ白い部屋に運び込まれ、黒い衣服を着た怪しげな男たちに囲まれた。

 煙が上がる怪しげな薬を飲まされそうになったり、手術をされそうになったりした。

 その度に暴れて抵抗するのだが、体を押さえつけられて、息ができなくなる。そこで目が覚める。

 ICUで数日間過ごし、一般の病室に移った。

 最初に入ったのは、症状が重い患者や注意が必要な患者が入る、ナースステーションの真ん前の相部屋だった。

 翌日から食事をとりはじめた。さらさらのおかゆだったが、1週間ぶりの食事が胃にしみた。

 病院での生活は朝6時に起床し、検温で一日が始まる。8時ごろに朝食をとり、その後、医師の回診を受ける。

 困ったのは、身動きが難しかったことだ。

 背中には痛み止めの薬を入れるチューブ。両腕には点滴のチューブ。局部には尿を出すためのチューブ。さらに、おなかには腹の中にたまった血や水を抜くためのチューブがつながれていた。

 手術では、腫瘍を切り取るために、腹部を20センチ以上、へその上まで切開した。せきやくしゃみをすると激痛が走る。おなかの中もズキズキ痛んだ。

 痛み止めの点滴もわずかな時間しか、効き目がない。苦しい時間が続いた。

いびきで眠れないなんて

 さらに同室の患者のいびきに悩まされた。お互いさまで文句は言えない。でも、気になって眠れない。

 余震で天井からコンクリート片が崩れ落ちてくる震災取材でも、特派員時代、空爆の音が鳴り響く中東の紛争地帯の宿でも、「なるようにしかならない」と腹をくくれば眠ることができた。

 それが、いびき一つで眠れないとは。「眠剤(みんざい)」と呼ばれる睡眠導入剤を飲んでもだめだった。

 精神的に参っているんだろうな、と思った。

 転院して2週間、12月22日に退院した。出血していたおなかの中の状態も落ち着き、自宅で静養していれば大丈夫だとの医師の判断だった。

 年末年始は家族とゆっくり過ごした。

 当時小学1年生の息子は、まだサンタクロースの存在を信じていた。

 クリスマスイブの夜、リビン…

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