「子どもたちを頼む」手術前に妻にメール 抗がん剤の副作用に苦しみ
希少がんである消化管間質腫瘍(しゅよう、ジスト)を患った私(54)は2021年3月、いったん退院し、自宅に戻った。
当時の状況では、おなかの中の腫瘍が大きすぎて手術ができなかった。腫瘍が小さくなるように、抗がん剤を服用しながら過ごした。
抗がん剤の副作用で、相変わらず強い吐き気に襲われていた。自宅での課題はやはり食事だった。
病院にいた時は退院という大きな目標があった。何とか点滴ではなく、口から栄養をとれるようにと、プリンやヨーグルトといった甘いものやスープなどを口にしていた。
だが、自宅に帰ってからは無理をしてまで食べようとは思わなかった。
すると、みるみるうちに体重が減ってしまった。
退院から1週間もしないうちに4キロ近く減り、47・5キロに。身長は165センチ。小柄にしても、「これ以上痩せたらまずい」と思わせる体重だった。
鏡で自分を見ても、げっそりとしている。このまま痩せつづけ、起き上がれなくなってしまうのでは、と恐怖を感じた。
それからは、努めて食べるようにした。例えば、3月24日のメニューはこうだ。
朝食には、バナナ、ヨーグルト、バニラアイス、リンゴ、ハチミツを混ぜた自家製のミックスジュースとドーナツ。昼は焼きそば。夜は太巻きずしとおじや。多少無理をしても口に入れるようにした。
家を出て、公園で過ごす
2カ月に及ぶ入院生活で体力も落ちていた。足の筋肉が衰え、少し歩くだけでふらふらする。
近くの公園までゆっくりと歩くことを日課にした。鉄棒にぶら下がり、無理がない程度に懸垂をする。
それが終わると、ベンチに腰掛け、図書館で借りてきた本を読んだ。鬼平犯科帳などの時代小説だ。
天気がよければ、昼から夕方まで公園で過ごした。
自宅から外に出ようとしたのは、ほかにも理由があった。
弱っている自分の姿を、家族に見られたくなかった。
自宅にいると、リビングのソファで横になっている時間が長くなる。
無意識に「おなかが痛い」「気持ち悪い」と口にしてしまう。そんな姿を見るのは、家族の負担になるだろうと思った。
見たくないニュース
自宅で過ごす時は、ニュースやワイドショーなどのテレビ番組は極力見ないようにしていた。お悔やみのニュースに接するのがつらかったからだ。
退院して間もない時期だった。同年代の柔道家、古賀稔彦さんが、がんで亡くなったというニュースを見た。
画面には柔道着姿で気丈に振…