中国で、通算8年以上暮らしているが、やめられない食べ物がある。炭火に肉汁がしたたり落ち、立ち上がる白い煙、そしてなんとも食欲をそそる香辛料のにおい――。
そう、「羊肉串(ヤンロウチョワン)」。中国に詳しい方なら、ピンと来たに違いない。
新鮮な羊の赤身と白い脂身とを交互に串に刺し、炭火で焼いて食べる中国のB級グルメの定番である。クミンや唐辛子などの香辛料をお好みで振って食べる。
私には、勝手に決めている自分だけの「中国3大料理」がある。「食は広州にあり」と言われる土地に住んでおきながら、広東料理がそこに入っていないのはへそ曲がりかもしれない。でも、中国は「小吃(シアオチー)」と呼ばれる手軽に食べられる料理がこの上なくおいしいのだ。しかも、食いしん坊の街だけに、小吃のレベルが半端ではなく、高い。
羊肉串も、私の「3大料理」の一つ。残る二つは、麻辣燙(マーラータン)と酸菜魚と呼ばれる四川省のピリ辛料理。昨年2月のこのコーナーでは野菜や練り物、キノコ、豆腐などを香辛料がきいたスープにくぐらせて食べる麻辣燙を紹介した。広州で家探しをしているときに見つけた店にほれ込み、自宅を決めたきっかけになったと書いたが、実は昨秋、この店が閉店してしまった。はやっていたのだが、なにぶん単価が安いためか、賃料が高騰している繁華街ではやっていけなかったのだろう。
そうした事情があり、最近は羊肉串を食べる頻度が自然に上がっている。今回も、このコラムを書くためと言い訳をして、10日余りの間に3店(計4回)も食べ歩いた。
なかでも特別に好きな店が、広州市の南、地下鉄・番禺広場駅から歩いて10分のところにある「新疆兄弟新鮮焼羊肉店」。羊肉串の本場、中国西部の新疆ウイグル自治区からやってきた少数民族ウイグル族の兄弟が開いている店だ。
6月初め、午後4時半の開店時間に訪れた。店に近づくと、焼き台からもくもくと白い煙が上がっていた。ちょうど炭をおこしているところらしい。
店の前には、羊の肉の塊が丸…
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