社会学者が考えるマンションの「根本的矛盾」 崩れた住宅政策の前提

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聞き手・石川春菜
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 マンションには、隣人とあまり関わらなくても暮らしていける、「没交渉」のイメージもあります。しかし、社会学者で住宅研究が専門の東京大学准教授の祐成(すけなり)保志さんは、「ホテル暮らし」とは違う「マンション暮らし」の特徴は、コミュニティーにこそあると言います。マンションが抱える「根本的な矛盾」とは。そして、日本の住宅政策の課題とは――。

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 ホテルの運営は、利用者のコミュニティーがなくても成り立ちます。

 マンションも、購入時には住戸ごとに商品になっていて、壁の内側や窓からの眺めに目が行きがちです。しかし、実際に生活していくうえでは、住戸と住戸の「あいだ」にある部分が大事で、これを適切に維持していくにはほかの居住者や所有者との関わりを避けることはできません。トラブルの解決や予防のために、共同で意思決定を行う必要が生じます。

 社会学では、コミュニティーをアソシエーションと対比させることが一般的です。アソシエーションは目的を持って組織される集団で、企業や学校が代表例です。対してコミュニティーは、家族のように目的がなくても成立する基礎的な集団を指します。

 マンションの管理会社はアソシエーションです。区分所有者が結成する管理組合も、目的が定められたアソシエーションです。それらとは別に、居住者の間には、隣り合って生活するがゆえの関係が生まれます。これを「コミュニティー」と呼ぶことは、理にかなっています。

 ただ、マンションとコミュニティーには、一筋縄でいかない関係があるのです。

 かつて、社会学では地理的な近さと感情的な近さの両方がコミュニティーの条件だと考えられていました。1970年代になると、地理的な条件は重要ではないという考えが強くなってきます。SNS上のコミュニティーなどを思い浮かべるとわかりやすいと思います。

 古いムラやマチでは、近くに住むことが、そのまま感情的な近さを意味しました。それを支えていたのは、暮らしを維持するための共同作業です。マンションでは、それぞれに独立した生活空間が確保されていて、地理的には近くても感情的には遠いままでいられます。近代の都市を体現するような環境です。

 こうした点に魅力を感じてマンションを購入した人でも、たまたま順番が回ってきて管理組合の役員に選ばれ、一緒に活動するうちに、感情的な近さが縮まることもあるでしょう。マンションにコミュニティーがあることは、良好な管理を可能にすると考えられています。他方で、そうした情緒的な関係は、管理組合の業務をゆがめるという批判もあります。

 日本のマンションは、もともとは都心や観光地で、セカンドハウスの需要を狙っていました。家族の住まいとして定着したのは、70~80年代ごろからです。いまの管理組合が、その時期の日本社会を前提とした仕組みになっていることには注意が必要です。

 当時は「モーレツ社員」の時代。会社から帰った男性たちが、連日深夜まで管理組合の会合で議論を闘わせた。そんな回顧を、70年代に分譲された大規模マンションの管理組合の役員だった方から聞いたことがあります。この世代が、長年にわたってマンションのコミュニティー活動も担ってきました。

 マンションの住民は、生涯住み続けたいと考える人から、いずれは売却を考える人まで多様です。時間が経つにつれて住民の高齢化が進み、境遇の差が開いていきます。所有と居住も分離していくので、建て替えなどの重要な意思決定が難しくなります。

 マンションは、根本的に矛盾をかかえた仕組みです。これまでは微妙なバランスのもと、表面化せずにすんできたように見えますが、今後もそれが続くとは限りません。

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