山下和美の長編マンガのように 是枝監督、対談で語った今後の活動

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構成・黒田健朗
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 東京都世田谷区。小田急・豪徳寺駅から徒歩5分の住宅街に、その水色の瀟洒(しょうしゃ)な建物はあった。「憲政の神様」と呼ばれた政治家、故・尾崎行雄ゆかりの洋館だ。

 この地を今春、映画監督の是枝裕和さんが訪れた。是枝さんと言えば、2018年、「万引き家族」カンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを受賞。最新作の韓国映画「ベイビー・ブローカー」も話題だ。

 そんな是枝さんを出迎えたのは、この館の保存活動に奔走してきた漫画家の山下和美さんだった。昨年「ランド」で第25回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞した人気漫画家だ。

 互いの作品のファンでもある2人が創作をテーマに対談する。そんな貴重な場が、洋館の見学後に設けられ、朝日新聞が取材した。

 2人の新作には「家族」を巡る物語という共通点がある。ただ、対談で是枝さんの口から出たのは「『家族を描きたい』と思っているわけでは全然ない」という意外な言葉だった。そして、山下さんは「ランド」が生まれるきっかけとなった幼い頃の原体験に触れ……。

 創作をテーマに、2人は縦横無尽に語った。

 ――見学した洋館は、山下さんの新作「ツイステッド・シスターズ」(講談社・モーニング連載)にも登場していますね。

 山下 「4人姉妹の話を描く構想は前からなんとなくありました。そこに館の話が舞い込んできたんです。最初、あの洋館を残すのは無理だと思っていて、それなら、漫画の中に登場させようと思った。それで洋館に合わせて物語を始めました。ただ、ネームを描いている途中でどうやら残りそうだぞ、とわかって(笑)。なら、実録(集英社・グランドジャンプ連載の『世田谷イチ古い洋館の家主になる』)も描いた方がいいのかな、と」

 是枝 「いやあ、面白いですね。フィクションとノンフィクションが同じ場所を舞台にして、同じ作家から生まれてくるとは」

 山下 「こんなはずではなかったんですが(笑)。私自身もどうなるか先がわからなかったんです」

 是枝 「『ツイステッド』の4人は見事にあの館に似合いますね。フィクションもそうですが、実録の方もハラハラしながら楽しく読ませて頂いています。もう、ああいう場所は本当にない。映画を撮ろうと思ったときに、東京だと古い建物は残っていないんです。撮影場所について、いちばん大変なのは僕じゃなくて、制作部なんです。『海街diary』をやるとき、鎌倉でも、木造の2階建てで一般の方が住んでいる状態で残っている場所って本当に見つけるのが難しくて」

 「あれだけの館が残っているっていうのは、すごい。光の入り方を見ただけでも、もうここで役者をどう動かすかを考えちゃうぐらい魅力的な建物です。残ると聞いて安心しました。あの洋館で撮りたい監督はたくさんいると思うな。ホラーもできるし、なんでもできますよ」

 山下 「(撮影を)やろうと思えばできるように、変にいじらないで、地震には耐えうるような形にはしようかな、と思っています」

 是枝 「素晴らしい」

 ――是枝さんの新作「ベイビー・ブローカー」(6月24日公開)を山下さんは試写でご覧になったそうですね。

 山下 「本当によかったです。いろんな人の気持ちがすごく丁寧なんですよね。フランスでの作品『真実』もそうでしたが、ここまで登場人物の気持ちに寄り添ってつくれる人もいないんじゃないかなって思っていて」

 是枝 「うれしいです。ひとりの赤ちゃんがある状況に放り込まれたときに、思惑の違う人々がその赤ちゃんのことをどう考えて、どう動いて、という物語です。誰が主人公か脇かということを考えずに、『この人だったらこの状況でどうするだろう』ということが先にあって、物語にしていくというのを考えました」

 山下 「いろんな人の行動を丁寧に追っていくのって、すごく難しいんです。どうしても主人公で物語をつくりたくなってしまうので。つくるのが大変だと思って、すごいな、と」

 ――映画の着想はどういうところから?

「山下さんの描かれる人間の顔が好き」「音楽の入るタイミングが、是枝さんだなって」。記事後半、2人はお互いの作品の魅力を語っていきます。是枝さんからは今後について、「(山下さんの代表作)『ランド』のような作品にそろそろ向かっていきたい」という発言も飛び出しました。

 是枝 「『そして父になる』…

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