原発事故の国の責任、最高裁が認めない判決 「防潮堤でも防げず」

根岸拓朗
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 東京電力福島第一原発事故で被害を受けた住民らが国に損害賠償を求めた4件の集団訴訟で、最高裁第二小法廷(菅野博之裁判長)は17日、国の責任を認めない判決を言い渡した。「現実の地震・津波は想定よりはるかに大規模で、防潮堤を設置させても事故は防げなかった」と判断した。裁判官4人のうち3人の多数意見で、1人は国の責任を認める反対意見を述べた。

賠償義務は東電のみに

 原発政策は「国策民営」で進められてきたが、賠償義務は従来通り東電だけが負うことになる。後続の同種訴訟でも国の責任は否定されていくとみられる。

 菅野裁判長、草野耕一裁判官、岡村和美裁判官による多数意見はまず、福島第一原発の事故以前の津波対策について「防潮堤の設置が基本だった」と位置づけ、「それだけでは不十分との考えは有力ではなかった」とした。

 そのうえで、2002年に国が公表した地震予測「長期評価」に基づき、東電子会社が08年に計算した最大15・7メートルの津波予測は「合理性を有する試算」と指摘。国が東電に対策を命じた場合、「試算された津波に対応する防潮堤が設置されたと考えられる」とした。

 一方で現実に発生した地震や津波は長期評価の想定よりも「はるかに大規模」で、仮に防潮堤を設置させていても「海水の浸入を防げず、実際の事故と同じ事故が起きた可能性が相当にある」と判断。国が規制権限を行使しても事故は防げず、国家賠償法上の違法性はないと結論づけた。

 原告側は事故の防止策として、防潮堤に加えて重要設備の浸水対策も検討できたと主張していた。しかし多数意見は、事故の前に浸水対策を定めた法令や知見はないなどと退けた。

反対意見の1人「事故は予見できた」

 地裁、高裁段階で主要な争点になった長期評価そのものの信頼性や、長期評価に基づく巨大津波の予見可能性については、明確な判断を示さなかった。

 一方、反対意見を述べた検察官出身の三浦守裁判官は、国の規制権限は「原発事故が万が一にも起こらないようにするために行使されるべきもの」と強調した。信頼性が担保された長期評価を元に事故は予見でき、浸水対策も講じさせれば事故は防げたと指摘。国は東電と連帯して賠償義務を負うべきだと主張した。

 東電と国を訴えた集団訴訟は全国で32件あり、約1万2千人が計約1100億円の賠償を請求している。

 最高裁は、先行した福島、群馬、千葉、愛媛の4訴訟について判断。東電に対しては3月に約3700人に計約14億5千万円の賠償を確定させた。この日は、高裁段階で結論が割れた国の責任について初の統一判断を示した。

 判決後、松野博一官房長官は会見で「引き続き被災された方々に寄り添い、福島の復興再生に全力で取り組みたい」と述べた。(根岸拓朗)

判決の骨子

・福島第一原発の事故以前の津波対策は防潮堤の設置が基本だった

・国の地震予測「長期評価」に基づく東電の津波予測には合理性があった

・だが、実際の地震・津波は長期評価に基づく想定よりはるかに大規模だった

・国が長期評価を前提に東電に防潮堤を設置させても事故は避けられなかった

「原子力政策への影響、最小限にとどめた判決」

 清水晶紀・明治大准教授(行政法)の話 判決は津波対策をとっていても事故を回避できなかった、という点のみに注目し、国の責任を否定した。予見可能性や規制権限を行使すべきだったかといった点は、あえて判断しなかった。

 水俣病アスベスト被害をめぐる最高裁判決では、確実な情報でなくても、事故や被害の危険性がある程度あれば国は対応しないといけない、という「予防原則」の考え方をとり、国の賠償責任を認めてきた。

 だが今回の判決は、予見可能性などに踏み込まなかったため、原発に対しても予防原則を採用するかどうか、明確にされなかった。

 事故が起きると被害を元に戻すことはほとんど不可能という結果の重大性から見ても、予防原則に立ち、国の法的な責任を明らかにすべきだった。原子力政策への影響を最小限にとどめようとした判決と言える。