障害年金の国籍差別なくそう 30年の活動に区切り 行政動かした力

中野晃
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 障害年金の国籍による差別をなくそうと、兵庫県内で活動してきた市民団体が30年余りの取り組みに区切りをつけて活動を休止した。県が今年度、無年金の外国籍障害者に対する福祉給付金の対象に重度のほか中度の障害者を追加し、各市町の支給分とで日本人の障害年金と実質同額になったためだ。要望を積み重ねる長年の活動が、少しずつ行政を動かした。

 障害基礎年金公的年金の加入者が事故や病気で障害を負った場合に国から支給される。加入期間でない20歳前の傷病で障害を負った場合でも、20歳から受給できる。しかし、外国籍者は1982年に「国籍条項」が撤廃されるまで年金への加入ができなかった。

 神戸を拠点に「障害年金の国籍条項を撤廃させる会」が発足したのは90年。神戸市内の療養施設で暮らす当時38歳の竹中漢邦さん(故人)が代表になり、支援者が集まった。竹中さんは祖父が台湾出身で、脳性まひの重度の障害があり、車いすの生活をしていた。

 竹中さんは30歳ごろに日本国籍を取得したが、20歳になった時点で外国籍だったとして国は障害年金の対象外とした。「おかしい。外国籍だったからといって、なんで障害者の年金をもらえないのか。僕は施設から出て、自立したい。年金がなくてどうやって生きていけるのか」。会発足当時の朝日新聞は竹中さんの言葉をこう伝えている。

 会の事務局長を長年務めた在日韓国人2世の李相泰(イサンテ)さん(73)=神戸市須磨区=は「外国人排除の制度を放置できない」と会に参加した。無年金状態の外国籍者は、在日韓国・朝鮮人など旧植民地出身者が多かった。日本人の養護学校教諭や福祉関係者らも加わり、自治体と交渉を重ねた。

 会の記録などによると、大阪府高槻市などの先行例もあって、神戸市は91年度から重度の心身障害者への特別給付金制度を設けた。94年度からは西宮、宝塚など阪神7市、95年度からは明石、加古川、高砂各市が同様の制度を始めた。

 現副代表の池田宜弘(よしひろ)さん(67)=神戸市長田区=は95年の阪神・淡路大震災後、李さんと出会って無年金問題を知り、県内の市町の役所を一緒に回って給付金制度の創設を訴えた。

 98年度、県も無年金の外国籍障害者のための福祉給付金制度を設け、同じ時期、姫路や豊岡など10市に同様の制度ができた。だが、各市の支給額が障害基礎年金(当時)の2分の1相当の月2万5千円(神戸市は月3万6千円)だったが、県は月1万円。あわせて日本人と同額という会の要望とは隔たりがあった。

 この問題は県議会でもとり上げられ、県は支給額を少しずつ増額。2015年度に重度障害者への給付額が県と各市町で障害基礎年金1級と同額になった。

 会は中度も対象にするよう要望を重ねた。06年度には南あわじ、淡路が支給対象とし、08年度から神戸や尼崎なども支給を始め、他自治体に広がった。導入を見送り続けた県も、今年度から対象とした。県によると、今年度の対象者は県内で重度64人、中度16人。

 会は約400人に送った5月の会報で「発足から32年もかけて、兵庫県ではようやく『完全実施』を勝ち取ることができました」と伝えた。李さんは「多くの日本人が問題に関心をもち、運動に集まってくれたのが大きい」と振り返る。

 会は7月3日、長田区内で「解決を共有する『集い』」を開く。参加費1千円で申し込みが必要。李さん(078・734・1819)まで。

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 国民年金制度は59年にできたが、在日外国人の加入を認めない「国籍条項」は難民条約発効の82年まで残された。米占領下だった沖縄などの日本人には復帰までの期間の免除や追納などの措置がとられたが、在日外国人には当初は経過措置もなく、無年金の高齢者や障害者が数多く発生した。

 福岡や京都などで外国籍の無年金者が国を相手に損害賠償請求訴訟を起こしたが、司法判断は国の裁量を認めていずれも敗訴した。

 住民福祉などとして独自の給付金制度を設ける自治体が広がったが、支給額は異なり、居住地で差が生じている。大阪府は「重度障がい者特例支援給付金」として今年度は月2万円支給。大阪市は独自に2万円を給付し、大阪市民は月計4万円になる。(中野晃)