南の島で生まれた「ざわわ、ざわわ」 歌い続ける女性の絶望と希望
10分余りの歌を歌い終えると、観客席は一瞬、静まりかえる。30年ほどソプラノ歌手を続けているが、拍手や歓声ではなく、必ず静寂に迎え入れられるのは、この歌だけだ。
深い共感に包まれる感覚、祈りの結晶のようなものを全身で受け止める。
寺島夕紗子(ゆさこ)さん(52)=東京都狛江市=は24歳のとき、初めてソロで歌い、とりこになった。
ざわわ、ざわわ、ざわわ――。同じフレーズを66回繰り返す。感情にとらわれすぎず、淡々と。それがこの歌をつくったひとの教えだった。その教えを心がけるほどに、静寂は深く、平和を思う心が、観客にも自分にも育まれてきたという確信があった。
しかし、今、その自負が大きく揺らいでいる。
がれきの中に立ち尽くす人。薄暗い地下鉄の駅で、毛布にくるまる子ども。噴き上がる黒煙。連日テレビから流れるウクライナの映像が脳裏から離れない。
〈昔海の向こうから いくさがやってきた〉
歌詞を口にすると、今この瞬間に命を落としている人たちの姿が想像され、絶望にも近い無力感にさいなまれる。
「さとうきび畑」。音楽家の父、寺島尚彦が作ったこの歌を、私が歌う意味はあるのだろうか。
この歌が誕生したのは、夕紗子さんが生まれる2年前、1967年のことだ。
幼いころ、東京の自宅2階の自室にいると、毎晩のように階下から聞こえてきた。父のレッスンを受けるために集った音楽家たちが奏で、歌っていた。
「同じ歌ばかりであきないの…
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