ぼそぼそ 小声でも議員に届く 夫婦別姓制度を願う高松市民の会
【香川】民法では、結婚するときに男性か女性のどちらか一方が、必ず姓を変えなければいけない。婚姻時に夫の姓に変える女性は96%にも上る。「名前をかえずに結婚したい」という当事者の思いを、地元の議員に会って届ける団体が高松市にある。「ぼそぼそ」と小さな声が、理解を広げている。
18日、高松市内の研修室に、20~70代の男女が集まった。
「転職を考えることもあるけれど、旧姓使用できるところを見つけるか、ペーパー離婚するしかない」
「制度の名前、『別姓』だとばらばらになってしまうような印象があるから『選択的夫婦同姓制度』に変えるのはどうだろう?」
2時間で、入れ代わり立ち代わり計8人が参加。輪になって、改姓にまつわる困りごとや思いを話した。
通称を「ぼそぼその会」とする団体の正式名称は「選択的夫婦別姓制度を願う高松市民の会」。ソーシャルワーカーの山下紀子さん(49)が2020年10月に立ち上げた。1~2カ月に一度、会を開いている。
会の活動は、法改正に向け国に意見書を出すよう地方議会に働きかけるため、山下さんがおそるおそる、地元の市議に電話をかけるところから始まった。
「選択的夫婦別姓制度を願う高松市民の会代表の山下と申します」。しかし、「選択的夫婦別姓」と言うや否や、電話を切られてしまうことも。そこで作戦変更。「困りごとがあってお話ししたい。結婚で名前を変えるのがつらいんです」
心細く不安な気持ちで会いに行くと、市議は耳を傾け、そしてこうアドバイスした。「署名をたくさん集めるよりも、政治家一人ひとりに会ったほうがいい。顔が見えないと政治家は動かない」
別の市議からは「少なくとも僕の周りに当事者はいない。山下さん1人ではあかんやろ。集まってやったほうがええんちゃう?」
SNSを通じて呼びかけ、当事者が集まって話し合える会にした。
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選択的夫婦別姓制度が実現されれば、先祖がたどれなくなるのではないか。お墓はどうするのか。子どもがかわいそうだ――。
議員がぶつける疑問や誤解を、山下さんは実体験を挙げながら一つずつ解きほぐしていった。すると、議員側も理解を示すようになった。「小さい頃、望まないあだ名で呼ばれたことがある。そんな感じやろか」「『応援しています』という郵便物をもらうけど、名前の漢字が間違っていたことがあって、本当は応援してないんじゃないかと感じた」
具体的な話をすることで、改姓することを想像したこともなかった人が、自らの経験と結びつけて考える。顔を合わせて話をする意味を感じた。
地道な活動が実を結び、昨年12月の高松市議会では、香川県内で四つめとなる国会での選択的夫婦別姓の議論活性化を求める意見書が全会一致で採択された。意見書を提出するよう陳情した山下さんは、市議会の総務委員会で「仕事関係者に知られたくなかった結婚・離婚・再婚が改姓で知られてしまう人、どちらが姓を変えるかという話し合い自体がなく、つらい思いをした人がいます」と、ぼそぼその会の参加者の声も代弁した。
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山下さんは、名前も顔もできれば出したくなかった。バッシングがあるだろうし、人の前に立つのも得意ではない。けれど、メディアの取材を受けるうちに「なにを伝えたいのかという言葉の輪郭ができてきた」と言う。「自分の名前でいたい」という思いを、匿名で出すのはどうなのか。この名前、この顔の人が困っていると話すことが、一番伝わるのではないかと思うようになった。
活動を通じて、市議が自分の家族に話したり、知り合った人が「こんな話題があった」と連絡をくれたりと、選択的夫婦別姓について考えてくれる人が増えたことがうれしいという。
高松市議会での意見書採択に続き、県内の他の自治体でも議論が進むほか、会には国会議員が参加するなど、活動は少しずつ広がっている。「目標は法改正、そしてその先のジェンダー平等の実現」と語る山下さん。その日までぼそぼそと話し、耳を傾け、思いを伝え続ける。(紙谷あかり)
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