組合員の数は約35万8千人――。埼玉県川越市、秋田市、三重県四日市市など、全国的に有名な都市の人口よりも多い。全国最大級の労働組合で、トヨタ自動車関連企業の309組合を傘下に持つ「全トヨタ労働組合連合会」、通称「全ト」。
全トはその組織力をいかし、かつて「民主王国」と呼ばれた愛知県で、旧民主党系の選挙支援を担ってきた。近年、労組の求心力低下を指摘する声もあるが、実際はどうなのか。普段の取材で幹部たちの声を聞くことはある。でも現場の若い組合員の声はあまり聞いたことがない。参院選が近づいた今年5月末、彼らの声を聞くため、愛知県豊田市の「トヨタ町」を訪れた。
「全ト」に異変が起きたのは、昨秋でした。衆議院が解散した昨年10月14日、おひざ元である愛知11区で7選をめざしていた現職の組織内候補の擁立取りやめを発表し、組合員に衝撃が走りました。いま労組で起きている変化を探るべく、記者(25)が「地取り」(聞き込み)取材を試みました。
トヨタ本社前などで「地取り」取材を敢行
記者がまず向かったのは、トヨタ自動車本社。午後5時を過ぎると、ぽつり、ぽつりと社員らしき人が出てくる。コロナ禍での在宅勤務の影響だからか、数はあまり多くない。もう少し、人通りの多い、近くの交差点に場所を変えた。
「選挙や組合活動について取材をしています。お話を聞かせてもらえませんか」。20人以上にたずねたが、断られ続けた。みな、近くの駐車場や最寄りの愛知環状鉄道三河豊田駅に向かって足早に歩いていく。派遣社員で組合に入っていないという人もいた。
「地取り」という取材手法はこれまでも試みたことがあるが、今回はガードが固い気がした。少しずつ暗くなり、歩いている社員らしき人の数も減ってくる。そろそろ切り上げようと考えていたら、ワイシャツ姿の男性が「別にいいですよ」と応じてくれた。
本社研究職で30代、小さな子どもが2人いるという。選挙に行くかどうか尋ねると、「もちろん。毎回行っていますよ」と答えた。
今回の参院選で、全トが特に支援している立候補予定者は全国比例と愛知選挙区の現職2人。ともに国民民主党の公認だ。全国比例の現職は、トヨタ出身で自動車総連の組織内候補でもある。
この男性も全トの支援する候補に投票するのだろうと思ったが、意外な答えが返ってきた。
全ト組合員に聞く「参院選の投票先は?」
「せっかくの一票。会社や全…
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- 【視点】
200人以上に声をかけて、答えてくれたのは12人。記者のこの苦戦ぶりが、まさに全トの現状を表しているように思えました。一人ひとりに組合への帰属意識があり、連帯感があり、国会に議員を送り込もうという強い動機が浸透していれば、こんなに苦労するこ
- 【視点】
この記事を読んで、3年前の謎がちょっと氷解した思いです。 3年前の参院選で、私は野党の比例区候補の取材を担当していました。そのとき、注目していたのが、全トが加わる「自動車総連」と、「電力総連」という二つの産業別労働組合の組織内候補でし