ケータイ小説は「リアル」だったか? あの頃の若者が泣いた『恋空』

有料会員記事

田中ゑれ奈
[PR]

 友達とのメールみたいな文体でつづられる平凡な日常、キラキラした恋、そして壮絶な悲劇。『恋空』をはじめとするケータイ小説はなぜ、10代の読者の共感を呼んだのか。当時の大人にはわからなかった、現代にも通じる若者の「リアル」とは。

レイプ、流産、シンナー・・・半角カタカナで書く悲恋

 二つ折りの端末をパカッと開き、親指でボタンを高速連打。あの人からの新着メールを待って、何度も「センター問い合わせ」する――。

 そんなガラケー文化花盛りの2000年代、女子中高生を中心にケータイ小説が流行した。なかでも単行本発売から1カ月で100万部を突破し、社会現象を巻き起こしたのが『恋空』だった。

 もともと書籍化が前提だったわけではない。世に出たのは05年暮れ。無料携帯サイト「魔法のi(アイ)らんど」の小説投稿機能を使って、ブログのような横書きで連載が始まった。ヒロインの名前は、作者と同じ「美嘉」。翌年に出版された単行本には「実話をもとにしたフィクション」と記されていた。

 「あ~!! 超おなか減ったし~っ♪♪」というセリフで始まる物語は、記号や半角カタカナをちりばめた軽妙な文体に反して壮絶だ。高校1年生の美嘉は同級生のヒロと恋に落ち、レイプ被害や予期せぬ妊娠・流産、シンナー事件に失恋、両親の不仲と、ハイテンポでさまざまな悲劇に見舞われる。美嘉が二つの恋の間で悩み、やがて恋人の死を迎える悲しい結末は、同世代の読者の涙を誘った。

記事後半では、ケータイ小説ブームの立役者のほか、その背景を分析したライターの速水健朗さん、作者の美嘉さんの話を紹介します。

 ケータイ小説の元祖は、00年に作家のYoshiが個人サイトで発表した『Deep Love』とされる。一方、ゼロ年代半ばの「第2次ケータイ小説ブーム」を率いた魔法のiらんど発の作品群は、作者がアマチュアなのが特徴だ。30作品以上の書籍化に携わった、魔法のiらんど元プロデューサーの伊東寿朗さんは「美嘉さんを含む作者の多くは普通の若い子で、自分の経験を物語に落とし込んでいるという感じだった」と語る。

 日本のSNSの走りとされるミクシィがサービスを開始したのが04年。同年、匿名掲示板サイト「2ちゃんねる」のスレッドをまとめた『電車男』がベストセラーになった。ネット上で一般ユーザー同士がコミュニケーションし、そこからコンテンツが生まれる時代が始まっていた。

 ケータイ小説のヒットの要因…

この記事は有料会員記事です。残り1694文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【7/11〆切】スタンダードコース(月額1,980円)が今なら2カ月間無料!詳しくはこちら