第4回行き過ぎた近代的人間観 自己責任論を超え「利他」を起動させるには

有料会員記事参院選2022

聞き手・真田香菜子
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中島岳志東京工業大教授

 「世界人助け指数」という国別のランキングで、日本は114カ国中最下位でした。格差が広がる社会で人びとが共に暮らすために、いま必要なことは。「利他」を研究する中島岳志・東京工業大教授に聞きました。

世界人助け指数(CAF World Giving Index)は、英国の慈善団体チャリティーズエイド財団が発表している。2009年に始まった調査で、100前後の国の人を対象に、「過去1カ月の間に見知らぬ人を助けたか」「寄付をしたか」「ボランティアをしたか」を聞き取り調査し、その結果を集計して、国別のランキングをつけている。2020年5月の最新調査で、日本は調査対象の114カ国のなかで最下位となった。

 ――日本は「世界人助け指数」が最下位でした。この結果をどうみますか。

 自己責任論が強くなっている表れだと感じます。戦後民主主義のなかで僕たちは「自立した個人として自分の意思で選択し、選択したことについては責任が伴う」という近代的な人間像を国民として獲得するよう、繰り返し教えられてきました。その結果、1990年代以降になると、自己責任論や小さな政府論が非常に大きな声になった。生活保護バッシングが起き、支えあいの精神は溶解していきました。戦後民主主義のあだ花として、こういう現象が出てきていると思います。

手助けと感謝の交換になることへの違和感

 ――中島さんがかつて住んでいたインドは14位です。日本との違いなんですか。

 インド人は困っている人がいたらさっと手が出るし、見知らぬ人にも当たり前のように声を掛ける。インドでは、「あなたはあなたの場所であなたのダルマを果たせ」と言われます。自分自身がその場所で成すべきことを成すということです。昔、デリーの駅で重い荷物を持って階段を上ろうとしていたら、30代くらいの男性がぱっと来て、一緒に荷物を運んでくれた。すごくありがたくて、僕は「バフットダンネワード(本当にありがとう)」と言いました。そしたら男性は、むっとした顔でどこかへ行ってしまった。おそらく彼は何にも考えずに手が出たのに、それに対して「ありがとう」と言い過ぎれば、手助けと感謝の交換になる。そこに違和感があったのでしょう。僕はここに「利他」があると思います。土台には宗教や、長い歴史を通じた信仰の世界があると思いますが、日本人はそういった観念がどんどん薄くなっている。

 1位のインドネシアはイスラム教国です。アラーという神を中心にして物事を考えるので、人はアラーの使いとして、神のおぼしめしにしたがってどう生きるのかということで存在している。日本との大きな違いです。

 ――日本には利他的な精神の土台がないということですか。

 近代的な人間観が欧米以上に…

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