ラジオから、ニュースが聞こえる。
「75歳以上の高齢者に死を選ぶ権利を認め支援する制度、通称プラン75が、きょうの国会で可決されました」
淡々と、言葉が流れていく。
「深刻さを増す高齢化問題への抜本的な対策を、政府に求める国民の声が高まっていました」
公開中の映画「PLAN 75」の冒頭の一場面。死の支援制度は冷静に伝えられる。日ごろ私たちが耳にする現実のニュースかのように。
これまで消費税や社会保障を論じる国の検討過程を取材してきた私は、「高齢化問題への抜本的な対策」という解がいっこうに見えないことに、ずっと悩んできた。記者として街を歩く人に話しかけ、なんとか「国民の声」を探ろうともした。
「PLAN 75」はカンヌ国際映画祭で脚光を浴び、欧州やアジアの各国でも上映が決まった。脚本も手がけた早川千絵監督(45)に、ぜひ聞いてみたくて取材をお願いした。
制度をつくる「政府」が作品にだれ一人登場しないのは、なぜですか?
「最初から一切、描かないと決めていました。新しい制度を、どんな人がつくっているかは私たちになかなか見えません。自分たちの意見が反映されず、いつのまにか政府に密室で決められている感じ、反対をしたくても、抗(あらが)いたくても、抗う相手の顔が見えない状況を表したかったのです」
公開に先立つシニア向け試写会での発言が、重い。
「子どものころ、長生きはい…