レイプ被害者も中絶できず 26州規制強化か、移動費支援する企業も

タルサ=藤原学思、ニューヨーク=真海喬生
[PR]

 米連邦最高裁が、中絶を憲法で保障された権利として認めない判断を示したことで、中絶の規制は州に委ねられることになる。中絶条件の厳格化を見据え、従業員への支援を表明する企業も出ている。

 米南部オクラホマ州タルサにある「タルサ・ウィメンズ・クリニック」は1970年代から、妊娠中絶を希望する患者を受け入れてきた。だが、6月中旬に訪ねると、既に中絶手術は行っていなかった。

 隣接するテキサス州では昨年9月、妊娠6週以降の中絶を禁じる州法が施行された。それを機に、多くの患者がオクラホマに来るようになった。しかし、今年5月にはオクラホマでも同様の法律が施行された。

 施行を受け、クリニックは30人以上の患者について、中絶措置をキャンセルせざるを得なかった。代表のアンドレア・ガレゴスさん(39)は、レイプの末に妊娠した女性にキャンセルを伝えた電話が忘れられない。「他に何か方法があるんじゃないか。その州法は私にも適用されるのか」とうろたえ、怒った様子だったという。

 オクラホマではさらに5月25日、「レイプや近親相姦(そうかん)などの場合を除き、受精以降の中絶を禁じる」という州法が施行された。結果的に、「レイプか近親相姦で妊娠し、6週以前」場合しか中絶ができない。8月には、例外を認めずに一切の中絶を「重罪」とする法律も施行予定だ。

中絶のための移動費、負担する企業も

 中絶が憲法で保障された権利でなくなったことで、こうした規制は他州にも広がるとみられる。「ガットマッチャー研究所」によると、全米50州のうち26州で、中絶を禁じたり、極めて厳しく規制したりする可能性があるという。

 中絶を厳しく規制する州は、保守的な南部や中西部に集中し、隣り合わせていることも多い。こうした州に住む貧困層や、仕事を休めない人にとっては、中絶を容認する州まで行くことも困難だ。

 従業員のために、企業が対応する動きは広がる。米メディアによると、娯楽大手ウォルト・ディズニーは24日、中絶などのために移動した場合は会社が費用を負担する方針を社員に伝えた。アラスカ航空グループも24日の声明で、以前から旅費を会社で負担しているとして、「今日の最高裁判決は、このことを変えるものではない」とした。金融大手シティグループやJPモルガン・チェースも旅費を会社で負担するという。

 「中絶薬」にも注目が集まる。手術より体に負担が少ないことから使用が広まり、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、米国ではオンライン診療による処方も認められた。州外の医師からオンライン診察を受けた女性が服用すれば、取り締まりも困難だ。オンライン診療や中絶薬の使用を規制しようとする動きが出ているなか、海外から薬を送る試みも始まっている。

 中絶に詳しいフロリダ州立大のメアリー・ジグラー教授は「ある州が中絶を禁じても、容認する州への移動を止められるのか、他州の医師の行動を制限できるのかなど、複雑な問題もたくさん生じる」と話す。今後も、中絶を規制をめぐって訴訟が続くとみる。(タルサ=藤原学思、ニューヨーク=真海喬生)

  • commentatorHeader
    三牧聖子
    (同志社大学大学院准教授=米国政治外交)
    2022年6月26日11時58分 投稿
    【視点】

    今回の最高裁判決の影響は米国内のみならず、世界中の保守派や右派勢力を勢いづかせ、世界中の女性のリプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利)に影響すると懸念されている。 既に兆候はある。1978年、イタリアはアメリカに5年ほど遅れて