夏休みの自由研究は「生きる力」を育むチャンス 研究テーマの決め方

中島美鈴
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 小学生の娘を持つADHDの主婦リョウさんにとって憂鬱(ゆううつ)な季節がやってきました。それは、夏休みです。娘の夏休みの宿題の中でも、毎年親子ともに頭を悩ますのは、「自由研究」なんです。

リョウ「やばいねえ、今年は自由研究どうしよう。」

娘「わかんない」

リョウ「また後で考えようか。まだ夏休み始まったばっかりだしね」

 こんなやり取りを繰り返しながら、気づけばお盆がすぎて、最後にやっつけ仕事になっているのが例年です。

 そもそもこんな疑問もありませんか?

リョウ「大体さ、自由すぎて何をしたらいいかわからないよ」

リョウ「どうしてわざわざこんな研究をしなければならないんだろう」

 そこで、このコラムでは2回にわたり、自由研究を成功させる秘訣(ひけつ)をお伝えしようと思います。

自由研究は二つのチャンス

 そもそも、自由研究は何の役に立つのでしょう。私は、自由研究を二つのチャンスと捉えています。

 ひとつは、科学的思考を身につけるチャンス。もうひとつは、子どもの「好き」を深掘りして、生きていくための原動力を発掘するチャンスです。

科学的思考を身につけるチャンス

 実は、「科学的思考」は、いわゆる「生きる力」をはぐくむことにつながります。

 例えば自転車に乗っていて、変な音がして前に進みにくくなってきたとします。こうした時私たちは、「パンクかな?」「タイヤに何か挟まったかな?」などの仮説を挙げながら、それぞれの可能性を確認するために、試しに空気を入れてみたり、タイヤのチューブを水につけてみたり、ぐるぐる回してみたりします。そうして、「パンクじゃないな」などと検証していくわけです。

 これも、科学的思考のひとつですね。この比較・検討の手順が整っていればいるほど原因は早く特定できることになります。

 もちろん世の中のもっと複雑なことにも科学的思考は応用可能です。

 私の専門とする認知行動療法でも、この科学的思考は重要です。対人関係のストレスでも、自分自身の性格についての悩みでも、これまでの自分の考え方や行動のパターンについて客観視して、過去にうまくいったパターン、いかなかったパターンを整理しながら、これまでのパターンとは違う実験を考え、実際に試しながら有用かどうか検証し、適応を目指します。

 こうした思考ができるようになると、仕事も効率よく、人生においても問題解決が上手になるでしょう。

 また、自由研究は理科系の作文技術を学ぶことのできるチャンスでもあるのです。

子どもの「好き」を深掘りするチャンス

 突然ですが、皆さんは進学や就職を決める時には何を手がかりにして決めましたか?

 労働条件、適性など色々あるかもしれませんが、「好き」なことを仕事にできることほど幸せなことはないのではないかと思います。

 自由研究は、「何が好きなんだろう、なんで好きなんだろう、この好きはどうやったら誰かの役にたつだろう」という深掘りをするチャンスです。

 この子の「好き」ってなんなんだろうとか、何をしている時が1番顔が輝いているだろうとか、この子ってどんな特徴を持っていて、それが生かせる瞬間ってどんな時なんだろうなんてことを考えながら、観察してみましょう。子どもと言葉にしてみましょう。

 いろんな所に連れて行って、それに対する子どもの反応を見るのも良いでしょう。

 それが旅行先かもしれませんし、友達かもしれないし、自由研究かもしれません。

 この体験が中学生や高校生になった時の進路選択の時に大きく効いてきますよ。

自由研究には6ステップがある

 それでは、自由研究を具体的にどのように進めて行くかについて説明します。

 親の視点から手順を述べていきます。全部で6ステップに分かれます。今回は最初の3ステップ、「研究テーマを決める」までをご紹介します。

ステップ1:子どものハマっているものを見つける

 お子さんは、どんなものが好きでしょう。何に興味があって、熱中していますか?

 こんなふうに尋ねると、多くの保護者が眉間(みけん)にシワを寄せて「うちの子はゲームか、ネット動画ばっかり」と言う回答が返ってきます。それでもいいでしょう。どんなゲームなのか、どんな動画が好きなのかをとりあえず箇条書きにしておきましょう。

 体を動かすのが好きなお子さんは、どのスポーツが好きなのでしょう?

 お料理が好き? 絵を描くのが好き? 昆虫が好き?

 一見自由研究と関係ないように見えてもいいです。とにかく「好き」が大事です。じゃないと、子どものやる気が続きません。

 リョウさんは、娘の最近ハマっているものを観察して、リストを作りました。

・ハンバーグが大好物

・映える写真を撮るのが好き

・キラキラしたビーズなどが好き

・人から「ありがとう」と喜ばれるのが好き

ステップ2:好きの中身を深掘りする

 いくつかの「好き」リストができたら、それをもとに保護者がインタビューして、それらのどの要素に引かれているのか、なぜ好きなのかを聞いていきます。そうすることで、リストの項目間に共通点が見えてきたり、その子どもが大事にしている価値観が見えてきたりするのです。

 リョウさん親子はこんなやりとりをしました。まるで野球の試合の後のヒーローインタビューのように聞いていきます。

リョウ「ハンバーグがどうなるとうれしいですか。」

娘「おいしく作れて……いや、作るのが好きなんじゃなくて、かわいく盛り付けて、喜んでもらえることかなあ」

リョウ「その喜ばせたい人って誰ですか?」

娘「○○ちゃんとか、△ちゃんとか、みんなに『おいしそう!』って喜んでもらいたい」

リョウ「おいしそうに見せるためのいわゆる映える写真をたくさん撮ってらっしゃいますが、何かコツがあるのでしょうか?」

娘「そうですねえ。私はキラキラのビーズが好きだから、そういうかわいいのと一緒に盛り付けるといいと思うんですよね。」

 このインタビューから次のことが明らかになりました。

(興味メモ)

・映えるかわいいハンバーグをキラキラしたもので飾り付けたい

・それを友達に食べてもらって喜んでもらいたい

 この作業は、案外家の外の方が集中できます。テレビもゲームも家事もないからです。散歩しながらとか、外食先で注文した料理が出てくる間とか、車で移動中なんておすすめです。

ステップ3:研究疑問の形にする

 いよいよ「好き」を研究に組み立てていきます。ステップ2で作成した興味メモを、「研究疑問(リサーチクエスチョン)」の形にしていきます。具体的には「どんな材料でハンバーグを作ればおいしくなるか?」といった疑問形にするのです。

 小学生で初めての自由研究ならこの研究疑問でも十分ですが、欲を言えば、

(1)自分だけでなくわりとみんな困っている問題がテーマであり

(2)研究で発見したことは、他の人でもその通りにすれば再現できる

ような研究だと、さらに本格的な論文になります。

 (1)の点は、小学生にはちょっと難しそうです。社会問題と何か関係がありそうか?などの視点は、日頃から子ども用の新聞やニュース番組を一緒に見て話題にしておくとよさそうです。リョウさんは、映えるハンバーグでおいしそうに見えれば、食べ残さなくなり、食品ロスの問題に少し貢献できるのではないかと考えました。

 (2)は、「キラキラビーズでデコレーション」よりは、「どんな色の食器が食欲をそそるのか」という問いの立て方の方が、誰にでも取り入れやすい工夫を提案することができそうです。

 こうした視点から研究疑問の形にブラッシュアップしていきます。

研究疑問「食べ残しを防ぐ映えるハンバーグの盛り付けは何か?」

 リョウさん親子の自由研究チャレンジは次回もステップ4―6まで続きます。

    ◇

 もっと自由研究や読書感想文の進め方について知りたい方は「マンガでわかる 精神論はもういいので怒らなくても子育てがラクになる『しくみ』教えてください」(主婦の友社)も参考になさってください。https://www.amazon.co.jp/dp/4074507668/別ウインドウで開きます(中島美鈴)

中島美鈴
中島美鈴(なかしま・みすず)臨床心理士
1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。