故郷の気仙沼を思って描いた波の絵本 阿部結さん「なみのいちにち」

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聞き手・松本紗知
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 「さん ささーん」と、浜辺に波が打ち寄せる。朝早くから船を出す漁師さんに、波と戯れる子どもたち。日が落ちた月夜の海では、亡くなった人の魂がにぎやかなパーティーをくり広げる――。

 宮城県気仙沼市出身の絵本作家・阿部結さん(35)が、海と人々の1日を描いた絵本「なみのいちにち」(ほるぷ出版)を刊行しました。ふるさとの海を思い浮かべながら描いたという阿部さんは「震災を避けて語ることはできないけれど、気仙沼は海の恩恵を受けた素晴らしい場所で、海を大切にしながら海とともに暮らす素敵な人々の営みがある。それを普遍的な形で描きたかった」と話します。

 ――制作のきっかけは。

 気仙沼で船乗りをしていて、病気で亡くなったおじの人生を絵本にしたいと思ったのがきっかけでした。

 それで数年前に、気仙沼の漁師さんに船に乗せてもらい、海での漁に同行させてもらいました。視界に広がるのは、水平線だけ。そのとき体験した海は、小さい頃に感じていた海とは全く違う感覚で。

 「こんな海知らなかった」というのと、命がけで働く漁師さんの姿をじかに見て「気仙沼にはこんなに美しい景色があって、こんなふうに海の上でたくましく働く人たちがたくさんいて、おじもその一人だったんだ」ということを改めて知ることができました。

 そうして作ったおじの人生を描いた絵本は、出版されてはいないんですが、それをきっかけに、海を舞台にした絵本をもう少し作ってみたいと思うようになりました。

 その後、気仙沼の日門海岸というところにめいと遊びに行き、めいが波と遊んでいるのを見て、1冊の絵本のラフを作りました。それが、今回の「なみのいちにち」の、最初の種のようなものになりました。

 ただ、女の子と波が遊ぶ絵本は、類書があったんですね。担当の編集者さんから「波のキャラクターのアイデアは残したまま、海と触れ合う人々の生活に寄り添う形にしてみては」というアイデアをもらい、そこから作っていきました。

 ――それからどのように今の形に?

 漁師さんたちは、すごく朝早く海に出て行くんですよね。昼間は海辺にたくさんいろんな人が訪れて、漁師さんたちが港に帰って来て……。そうやって、海辺に来る人たちのことを考えていたら、海と人々の関わりを1日で表現するのがいいなと思って。

 それで、1日の始まりから終わりまでの時間の経過の中で、人々が海辺に来て、海と関わって、またそれぞれの生活に戻っていくという、今の形になりました。

 ――阿部さん自身も、海のそばで育ったのでしょうか。

 私の家は、海からは少し離れた山の方にあったんですが、山を下りるとすぐ漁港があって、海がありました。それに、おばあちゃんの家が海のすぐそばで、私も海辺でよく遊んでいたので、その海辺は私の原風景のような場所です。

 今回の絵本では、その気仙沼の海を思い浮かべながら描きました。

亡くなったおじに、ずっと後悔があった

 ――絵本の中に、漁師として働いてきたおじいさんの半生を振り返るような回想の場面が出てきますね。

 ここは、私のおじのことを描…

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